第7話

「あれ、愛希。」

荷物を抱えたまま戻ってきた俺に、晴が不思議そうな顔をする。

「返事がなかったから。」

「愛希兄さんにデリカシーなんて考えあったんだ。」

「…開けたら寝てたから。」

「そんなことだと思った。」

真冬が呆れたような表情をする。なんとなく彼女の頬にあった涙の跡は言いたくなかった。

「そうか。やっぱり疲れてたんだね。ありがとう、愛希。」

ナキ兄がキッチンから戻ってくる。私室に運ばない分の食器などを荷ほどきしていたらしい。

「それよりさ…。ナキ兄、この箱の中身知ってる?」

「いや?母さんが歩ちゃんに渡して、って言ってたから。見てないよ。」

「そっか…。」

「何か気になることでもあったか?」

晴が怪訝そうな顔で俺の顔を覗き込む。

「さっき運んでる時に気づいたんだけど…。このプレゼントボックス、父さんの名前なんだよね。」

「え。」

「それに…なんか生き物の気配がする気が…。」

俺以外の兄弟がそろって、同じ顔をする。多分だけど、俺も同じ顔をしてる。

「愛希、開けろ。いいよな、奈月。」

「ああ。」

「わかった。」

彼女へのものを開けるのは本来ルール違反だろうが、兄弟全員が、おそらく似た予感を共有した結果だ。なんせ前科がいる。

「…え。」

「真冬、これって…。」

隣にいたはずの真冬に声をかけるが、真冬は中身を見た瞬間、数歩下がっていた。

「ほー…。」

「母さん!!」

晴が間髪を入れず、母のケータイに鬼電を始めるのを、呆然と眺める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る