第6話

部屋の前に立って軽く扉をノックする。

「おーい…歩。忘れものと荷物だ、入るぞ。」

彼女の名を呼び捨てることには抵抗があったが、仕方がない。返事は聞こえたかよくわからないが、拒絶はなかったので、扉を開く。

「寝てる…?」

あまりに静かな扉の奥には、涙の跡を頬に残しながら、ベッドに伏して静かに寝息を立てる姿があった。そんな姿を覗く気はなかったが、偶然見てしまった姿にとてつもない罪悪感に襲われる。

「歩さーん…。」

それでも起こすのもためらわれて、どっちつかずな声かけをしてしまう。

「寝てる若い女の子の部屋に入る男って、いくら何でも最低の部類に入るよな…。」

真冬あたりに散々からかわれそうだ。

一度退散しようと、踵を返すと、無意識だろう、小さく服の裾を引かれる。

「まじかよ…。」

いろいろ耐えきれなくて、胸の奥がむずむずする。思わず小さな頭をさらりとなでる。

「んっ…。」

色気も何もない反射的な声だったけれど、ものすごくドキリとする。

出来るだけ静かに、物音を立てないで部屋を出ることに全精力を投入する。

ナキ兄ならきっと上着なりなんなりを風邪をひかないようにかけるだろうし、晴なら容赦なく起こすだろう。真冬なら、きっと暖房を無言でつけるのだろう。

「ごめんな、俺で…。」

兄弟たちの取るであろう行動が容易に予想できる分だけ、もやもやがひどくなる。

荷物を抱え直して、俺はリビングに逆戻りする。

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