第5話

「晴兄さん。」

ナキ兄が、彼女を部屋に案内するのを見送って、真冬が晴に話しかける。

「何?真冬。」

「驚いた。ついこの間両親を失ったとは思えないくらい落ち着いてるんだね。」

「…まだ、心の整理がついていないんだろ。多分、まだ泣けてないんだと思う。」

「タラシ発動か?愛希。」

「…ちげーよ。」

家族を失い、ほとんど知らない叔父に引き取られそうになったら、もっと知らない叔母に引き取られ。そこには息子が4人もいる。混乱しないはずも、疲れていないはずもないのに、彼女が哀しみを纏っていなかったのが、妙に気になった。

「愛希兄さん、大丈夫敵はいないよ。双子というものは得てして負けフラグだし、僕年下な上に、彼女いるし。」

「真冬が何を言っているかはわからないが、とりあえず黙れ。オタクの妄想を引っ込めろ。」

軽くグーで真冬を殴ると、家族だからわかる程度に不満そうな表情を浮かべる。

「奈月。」

ナキ兄が、リビングに戻ってくる。

「女の子の引っ越しじゃ、力仕事以外手伝えることも少ないしね。恐縮してるみたいだったから。…それより、これ彼女の?」

「だろーな。俺達の誰のでもない。」

ナキ兄の手に握られていたのは、青いスマホだ。

「スマホ落としても気づかないくらいには、疲れてるんだな。」

「みたいだね。…届けたほうがいいかな。」

「うん。ないことに気づいたらびっくりするだろうし…。愛希。これと…母さんからのプレゼント。やたら大きいからさっき渡し損ねたやつ、一緒にもっていってあげてくれるか?」

「どうして俺…。」

「重たそうだから。」

「はいはい。」

よっこいしょ、と大きな包みとナキ兄から受け取ったスマホをもって階段を昇る。

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