このルートを選ばせる。

第2話

「実は先日、志岐の弟夫婦が事故で亡くなりまして。」

「ストップ。」

「なによ晴。さっき最後まで聞くって言ったじゃない。」

不服そうな母を晴は睨み付ける。

「父さんの弟って何…。俺聞いたことないんだけど。奈月、知ってたか？」

「晴、お前が知らないことを僕が知っているわけがないだろう？」

「奈月、お前長男だろう…？」

「晴のほうがだいぶしっかりしているからね。双子に長男も次男もないでしょ。」

晴の頭痛が止まらなそうな状況で、もはや可哀想になってくる。

「弟とは言っても志岐とは血がつながってないらしいわ。詳しい事情は興味ないし知らないけれど、二人の仲はわりと良かったみたい。…そりゃあんたたち知らないわよ。私も死んだって聞いたのが初めてなんだから。志岐と出会ったのも学生の頃だし。志岐も普通別れた女房に助け求めるないわよね。」

父さんは本当に適当な人だ。

「止めた俺が悪かった。」

しっかり者ゆえに、貧乏くじを引きがちな晴は諦めを滲ませる。母さんの話は聞くしかない。

「それで、お葬式に行ったら、セーラー服の女の子がいて。志岐に聞いたら”弟の忘れ形見”っていうじゃない。志岐が引き取るとかいうから、頭きて。引き取ることにしたわ。」

「どうせ”静が引き取ってくれるなら心強い”とか言われたんだろ、母さんは父さんに甘々だから。」

止せばいいのに俺はついつい毒を吐いて、無言で殴られる。しつこいようだが、二人は夫婦としては失格だったが、恋人としては上出来なのだ。

「だって、志岐に年頃の女の子なんて面倒みられるわけないじゃない！自分の息子だって、面倒みられなかったのに。いいじゃない、うちには金も場所もあるんだから！」

「ああ、あるな！！だけど、ここ若い男４人所帯だぞ！母さんは家になんてめったにいねえし！！父さんのところと似たり寄ったりだ！」

「何、寂しいわけ！？２０過ぎて情けない！」

「んなわけあるか！！」

「あー。始まった。」

「晴兄さんは自分たちを貶めてるの？奈月兄さん。」

「真冬しーっ。晴に任せておこう？」

「しかも従兄妹って言ったってそれじゃ血縁ないんだろう！？」

「ないわね。」

母さんは堂々と言い切る。

「晴、諦めるしかねえよ…。母さんが決めたことは揺らがない。」

晴を俺はいさめる。母と晴の言い争いは基本的に不毛で、大体は晴が正論でありながら負けるのだ。

「そうよ～。これは決定事項。」

母はひらひらと手を振る。

「奈月、ごはん出来たら呼んで。私はちょっと仕事してくるわ。」

「ハイハイ。」

今日の食事の当番であるナキ兄に、声をかけて母は立ち去ってく。

「さて、晴。リクエストは？」

「胃に優しいもので…。」

「了解。」

晴の悲痛なリクエストに笑って、ナキ兄はキッチンに向かった。