私が望んだこの静かな世界

@YSGyouza

窓から差し込む柔らかな日差しで私は目を覚ました。


今日も新しい一日が始まる、それはとても嬉しいことだ。


服を着替え、顔を洗い、朝飯は・・・まいっか。


意味もなく急いで靴を履くと、私は何も背負わずに外に出た。


扉を開けて最初に会うのはいつだって隣のおばさん。


あの笑顔は人を和やかにさせる不思議な力がある。


歩いていると様々な人たちとすれ違う。


通学途中の近所の子供たち。自転車に乗っているお兄さん。犬の散歩をしているおじいちゃん。


皆、新しい一日を始めようとしている。


そして大通りにでるとさらにたくさんの人たちがいる。


そこの皆も前に向かって進んでいる。


ふと、ある少女が目に留まった。


母親と一緒にいる少女だ。


少女はお店の方を指さしている。何かをねだっているようだ。


お母さんはとても困った顔をしていた。


それとは対照的に、少女はとても笑顔だった。


本当に、眩しいほどの笑顔だ。


でも、なんで今更あの笑顔が気になったのだろうか?






・・・そうか


たぶんもう限界なんだろう。






・・・・・・私は走った。


一生懸命走った。


そこにはもういられなかったから。


今更だ、どうしようもない、最低だ。


私が望んだことだ。


私が望んで。私がやったことだ。


覚悟をした・・・はずだ。


涙が堰を切ったようにあふれ出してきた。




ふざけるな!


五月蠅かったから静かにさせただけじゃないか!


目障りだから石にしただけじゃないか!


動かなくなってしまったらそれはただの”モノ”だ。


端っこに落ちている石ころ同然だ!


そんなものに一々感情移入するなんて馬鹿らしい!




・・・けど・・・どうしても・・・あの笑顔が離れない。


あの子だけじゃない。あの子の笑顔だけじゃない。


世界を止めてから見たすべての石像にんげん表情かんじょう


まだ生きてるかのような生々しさを、生命の残影を残していた。


三日前からずっとずっと私の中に残り続けている。


消そうとしても次から次に浮かんでくる。


・・・もうだめだ、耐えられない。







気づいたら私はビルの屋上にいた。


私は三日前、世界を滅ぼした。


少なくとも私が行ける範囲の人は全員石になっていた。


後悔は無い。私が望んだことだ。


でも私は、私自身が望んだ世界に耐えられないようだ。


ふと、空を見上げるとそこには番の鳥が飛んでいた。


手を伸ばせば届きそうな気がした。


一歩二歩と前へと進む。


あれに届けば私の罪が消える気がした。


必死に手を伸ばした。


もう少しで手が届く


でもそこにはもう足場がなかった。


ぐるりと世界が回り、たくさんの石像にんげんが視界に入った。


・・・もう遅かった。






私の人生で褒めるべきことがあるとすれば、それはこのを皆に与えずに世界を終わらせたことかもしれない。

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