0-3


正直家へ向かっている最中緊張で頭がおかしくなりそうだった。どっどっと鼓動が強く音を立てている。

時刻は夜の二十二時前。今日は残業で少し遅くなってしまった。この時間だともう夜食の準備はできているだろう。もしかしたら愛花もいつも通り元気な笑顔で出迎えてくれるかもしれない。現実逃避? 願望? そのどちらでもある。


「た、ただいま!」


緊張のせいかつい力んでしまった。

ぱたぱたと足音が聞こえてくる。リビングから現れたのは愛花。長い髪を下の方に結っている。料理をしていたからだろう。その表情は……どこか切なげであった。


「おかえりなさい、かなくん」


頬を赤く染めて、やんわりと笑う愛花。その裏側に見える影。間違いない、彼女はなにか隠している。僕のいない間になにかをしているんだ! 手汗がすごいことになっているが、そんなことはどうでもいい。僕は靴を脱ぐことすら忘れ、わざと足音を立てながら愛花に詰めよった。

愛花は状況を理解していないのか「え? え?」と困惑した様子を見せている。そんな愛花の肩を、僕は掴んだ。


「僕になにか隠してるのか?」


自分でも思う。あまりにもストレートすぎると。だが考えるよりも先に口が動いていた。僕は話しあいに向いていないんじゃないのか、なんて思っている場合ではない。

僕が言葉を発した瞬間、愛花は大きく目を見開いた。それは……肯定に、見えた。


「やっぱりなにか隠してるんだな」


「ち、違うの」


か細く震えた声で愛花が否定する。隠していることはないのか、隠すつもりはなかったのか。間違いなく後者だろう。君は態度に出やすいんだな。

愛花は怯えているようだった。そんな様子を見て、少しの罪悪感に襲われる。そっと愛花の肩から手を離し刺激しないよう優しく声をかけた。


「愛花、なにかあるから言ってほしいんだ。ここ最近様子がおかしくて、僕は心配してるんだよ」


「……」


愛花は目を伏せ、返事に迷っているようだった。そんなに言いづらいのか? それとも言えないようなやましいことを? いいや、やめろ僕。僕は愛花を信じているんだ。なにか隠していても、そんなことは絶対にしないって!


「心配かけてごめんなさい。でも……私もどうしていいかわからなくて」


伏せていた目からぽたりと涙がこぼれおちた。ああ、君はこうなるまで悩んでいたというのか。なぜ僕に話してくれなかった。そんな意味を込めて、今度は愛花を力強く抱きしめた。それに愛花ははっとしたあと、弱々しい力で抱きしめかえしてくれた。


「なんでも相談にのるから」


「……本当に?」


「ああ、当たり前だろ」


僕の言葉を聞いて、愛花は安心したように「そっか」と呟いた。そして意を決したのか軽く深呼吸をして僕の耳に唇を寄せてきた。そういう雰囲気ではないにしろ、どきっとしてしまう。


「あのね、私……魔法少女なの」


……は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うちの嫁さんが魔法少女(仮)だったんだが 秀吉彰 @lion15948

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ