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きっとこのままじゃ良くないだろう。できれば夫婦の間に隠しごとは避けたい。それでも踏みこまれたくないことは誰にだってあると思うが、もしそうならもう少しうまく隠してほしい……と思うのはわがままだろうか。
まあいい。今日だ。今日も帰ってきて様子がおかしかったら聞いてみよう。
「それじゃあ行ってきます」
玄関先で愛花とキスをして、僕は仕事へと向かった。まだ出勤すらしていないというのに、もう緊張で心臓がばくばくと音を立てている。
愛花と付きあってきて、こんな風になったのは初めてだ。思えば愛花との話しあいは結婚式をどこで挙げるかくらいしかしたことがない。
もしかしたらいずれは通る道なのかも。
♦︎
「それって浮気じゃないですか?」
愛花が愛情を込めて作ってくれたお弁当。言ってたとおり僕の大好物ばかりだ。大好きなハンバーグを口に含んで咀嚼していると、隣の席の
僕一人じゃ抱えきれなかったので彼に相談してみたのだが、なんてことを平気で言うんだ。
「熱っぽい疲れ、でも熱はないんでしょう? なーんか怪しくないですか」
「ないない。それはない」
あの愛花だぞ。僕のことが好きで好きでたまらないはずのあの愛花が、他の男とだなんて考えられない。この自信はどこから来るのかって? それは僕も愛花のことが好きで好きでたまらないからさ。などと言ってみろ、目の前にいるこの爽やかな青年は鼻で笑うに違いない。
「ラブラブなカップル……いや、この場合は夫婦か。そういうのに限っていろいろありますからね」
彼は僕より若い。今年で二五歳とかその辺だったはずだ。なのになぜなにもかも悟っているかのような口ぶりなのだ。……理由はわからなくもない。彼は顔が整っているし、数多くの女性からアプローチを受けてきたことだろう。だから僕なんかよりいろいろと経験してきた、というわけかな。
「あまり不安にさせないでくれよ」
「あはは、すみません。まあ気楽に行きましょうよ」
浮気だのなんだの言われて、気楽に行けるわけがない。しかし僕は愛花を信じているので、なんの心配もない……はずなのだが、なんだというんだ。このなんともいえないそわそわした感じは。大丈夫だと確信はしている。でもやっぱり愛花はなにか僕に隠している……そんな考えが入りまじって少し気持ちが悪い。
美味しかったはずのお弁当の味が、なんだかわからなくなってしまった。
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