ギルド《断罪の孤独者》

第7話弱点属性:妹

  ーーこの世界とはーー


 徐々に視界が戻ってくる。

 うーんと街はどこだ?……お、あった。さて戦闘なしに切り抜けられるか?


(さて、まずは起こさないとな。)


 それを察知したのかユウヒは


「あと5分だけ、あと5分だけねかせて〜。」


 と、いかにも眠そうな声を出した。


(兄妹の絆という意思疎通がいかに便利かわかる。

 日常では、こういう風に便利だし、

 戦闘では、掛け声なしに連携できる。)


「寝ててもいいけど、走るから落ちるなよ。」


「わかった。」


(絆というチートスキルがあるにもかかわらず、

 こうして声を出して意思疎通しているのは、

 なれていないからか、

 なんか、味気ないからだろうか)


 と思いながらも俺は、

 あのAIに指示された通りに、街を目指す。


 走りながら俺は、モンスターがいないか周りを見渡した。すると、何メートルか毎にモンスターの群れが見えた。


(なるほど、モンスターにも縄張り意識があるのか。)


 俺がモンスターをみてもいたって冷静なのは、言うまでもなく ゲーム の影響だろう。


 見た感じいるのは、ゴブリン、コボルト、狼だ。

(狼はモンスターとは言いがたい、が)

 たしかにここは俺たちのいた世界とは違うことが見て受け取れる。


 雑魚クラスのモンスターだろうか。そう思いながら周りを見渡していた。

 気がつくと、粘液質の不定形のモンスターが通せんぼしていた。


「まあ、こいつなら倒せるかな。」


「プルプル、僕悪いスライムじゃ(ry」


(こいつならもし、襲われても大丈夫だろう。話してみるか。)


「じゃあ、何の用で?」


「実は……」


「つまり、君は味方だと思っていたモンスターに仲間が殺されて今、一匹なんだね。

 で、僕たちの仲間に入れて欲しいと。

 それは君が、裏切り者になるって覚悟の上で言っているんだね。

 それなら俺は止めないけど……ユウヒはどう思う?」


「おはよう、お兄ちゃん。で、何についての話?」


(おい、ウソだろ!?走ってた俺の上でも熟睡するのか!?)


「えっと、まず……

 ……ってことなんだ。どう思う?俺は止めないつもり。」


「うーん、別にいいけど……実力知っといたほうがいいんじゃない?」


「それもそうだな。

 というわけで、少し模擬戦で、実力を教えてくれる?」


「わかった。

 でもここじゃ、邪魔が入ってくるから場所を変えたほうがいいよ。」


「それなら心配いらないよ。な、ユウヒ」


「5分だけでいい?」


「それだけあれば十分だよ」


 というとユウヒは、半径約5メートルの球体状のバリアを展開した。


(相変わらずすごいな)


 と、俺は感心しつつも戦闘の準備に入った……のだが勝負は一瞬で決まった。


 結果は、もちろん俺の勝ちだ……と、言いたいところだったが、俺は負けてしまった。

 負けた要因は、

 まず、粘液質の生物の特徴とも言える液体状に溶けることで大体の攻撃を無効化し、

 そこから素早い動きで俺の下まで来て

 俺の足に絡みついた。

 それにより俺は転倒し、地面に頭突きを叩き込んだ。


 それだけなら良かったのだが、まだ終わらない。

 相手は全身に絡みついて来た。

 足から徐々に全身のコントロールを奪ってきたのだ。

 そのときの、なんとも言い表しがたい感覚といったら……


 なんというかヌメヌメした物体が

 気持ちに反するかたちで少しずつ侵食してきてくすぐったいというか……


 気持ち悪いというか……


 気持ち良いというか……。


 もし、ユウヒがやられていたらなぁ……。

 それはそれであr……おっと、ここら辺にしとかないとな。

 で、最終的に口と鼻を塞がれてギブアップという形で俺は負けたのだ。

 ということで、粘液質の生物の実力は問題なかった。


「実力は問題なしか。……っていうか普通に強くね!?他のやられた仲間もこんなに強かったの?」


「いや、僕だけ格が違ったの。」


「ふむふむなるほどね……ところで、名前聞いてなかったから自己紹介しようか。」


「俺の名前は、影野 蒼(カゲノ アオイ)。

 気分的 に 勇者 やってます。」


「私の名前は、影野 ユウヒ。

 気分的にヒーラーやってるんだけどアタッカーの方がやりたいな。いわゆる、バーサクヒーラーってやつ。」


「僕に名前は無いんだ……。

 僕たちの種族(スライム)は基本的に番号で呼び合うんだ。一応言うなら3が僕の番号。」


「じゃあなんか関係ある名前を考えようか。」


(3か。スリーは……無いな。三郎……うーん、これを言ってみるか。)


「三郎ってのh……。」


「却下。っていうかなめてんの?もう一度窒息させるよ。」


「いやいや、勘弁、勘弁。実際ダメだろうなと思って言ったから。

 で、ユウヒはなんか思いついたか?」


「うーん、三鈴(みすず)ってのはどう?」


「それ、いいね!」


「おいおい、いくらなんでも男(の子)?にそれは無いだろ。」


「はぁ!?何言ってんの?僕、女だよ!」


「いや、でも僕って言ってたし……。」


「お兄ちゃんサイテー!」


 グフッ!


 俺は、ユウヒから 精神 にダイレクトアタックを受けた。精神に50ポイントのダメージ!


 俺は視界が真っ白になった……


「あれ、お兄ちゃん!?ダメだ。失神してる。」


(このとき俺の弱点属性に妹が追加された。)


「で、僕は三鈴を名乗らせてもらうよ。じゃあ、改めて影野 三鈴(カゲノ ミスズ)です。よろしく!あ、影野っていう姓を名乗っているのは、一応、養子ってことで。」


「えっと、それって……。」


 とユウヒが言ったその刹那、三鈴を中心にまばゆい光が放たれた。


 光が収束すると、そこに三鈴の姿は見えなかった。代わりに、蒼髪の女の子が立っていた。


「お姉さん、とそこの倒れてる人大丈夫だった?

 スライムに襲われているのが見えたから。」


「う、ウソでしょ。三鈴……。」


 ユウヒはそういい地面に崩れ落ちた。

 それを見ていた女の子は言った。


「お姉さんたちモンスターテイマーだったのか?」


「それなら、悪いことしちゃったな」


「……リザレクション。」


 ユウヒは話の要点を聞きながらも呪文を詠唱していた。


 もう一度まばゆい光が辺りを包み込む。


 そこには、スライム改め三鈴の姿があった。


「よかった……。間に合って。」


「お姉さんすごいよ!その魔法って、失われた魔法(ロストマジック)なんだよ!?

 それにみる限り、 失敗の代償 だってないみたいだし……

 それができるのは、もう一人もいないって習ったのに……ほんとすごいよ!」


「ほめてくれるのは嬉しいけど、ちょっと今は……魔力、使いすぎたから。それより、三鈴に謝ってくれる?」


「えっと、スライム……じゃなくて三鈴さん。申し訳ありませんでした。」


 女の子は、できる限りの敬語を使い、謝った。


「うん、大丈夫。

 ちょっと、体の組成を変えるときは、全体的にすごく脆くなっちゃうから。」


「えっ、それって……。」


 その言葉を遮る形で三鈴は言った。


「ちょっとみんな後ろ向いてて、いいよって言うまでこっち見ないで。」


 30秒ぐらいして


「もう、いいよ。」


 と言う声がした。

 そして、後ろを見ると、お兄ちゃんがいた。しかし、何かが違う。女の子には、わからないようだが、

 兄妹の私にはすぐわかった。


「なんか、髪の色がいつもと少し違う気が……」


「じゃあ、これでどうかな?」


 そう言うと、お兄ちゃん?は髪を撫でた。


「あれ?色が変わってる。元の色になってる。」


 そして、今気づいた。後ろの岩陰に誰かの足が……。


「っていうことは……もしかして三鈴?」


「ご名答!まさか、髪の色の違いに気づくとはね。

 よっぽど、お兄ちゃんのことがすk……」


「あー!アンナトコロニ、オニイチャンガー!」


 明らかに棒読みである。

 俺は実際、三鈴に コピー と言うべき能力を使用されていたときには失神から目覚めていたのだが、面白そうなのでそのまま放っておいた。


(さて、そろそろバレるとまずいな。)


 俺は


「うーん、あれ……ここは。」


 と言いながら、起き上がった。


 おもむろに、辺りを見回し、もう一人の自分の姿に気づく。

 そして、その近くにいるユウヒと……誰か女の子の姿に気づく。


「えーっと、おはよう?なのかな。

 で、ユウヒ今の状況を説明してくれる?」


「うーんとね。こういうことがあって……。」


「なるほどね。で、俺たちは街に行くんだけど……君は、どうするの?」


「えっと、いっしょに行ってもいいですか?」


「それだと親が心配したりしない?」


「お父さん、お母さん……か、なつかしいな……。

 3年前にモンスターに襲われて…わたしだけが助かった……。あのとき、わたしが……。」


 それは、悲しい現実だった。


 あの日、それは突然訪れた。


 わたしが住んでいたのは、辺境にあるベルーザ村という小さな村だった。

 周りには自然が豊かでモンスターの襲撃なんてないような平和な村だった。


 当時、小6のわたしは、魔法剣士育成小学校(通称:魔剣士小)と呼ばれている学校に通っていた。

 わたしは学校一の秀才と呼ばれ、成績も良く、中学校への進学も決まっていたのだ。

 その日は、卒業試験のうちの実技試験の日だった。

(と、いってもわたしは、試験を受けなくてもいいほど成績が優秀だったので、休みだったが。)


 実技試験の内容はいたって簡単。

 モンスターを倒す、ただそれだけ……のはずだった。

 といっても、そのモンスターは、上の魔術研究機関から送られてくるモンスターで、F級、E級といういわば雑魚モンスターだ。


(モンスターのクラスづけとしてF級からS級まで存在していると言われている。)


 で、お父さんと一緒にモンスター輸送トラックが到着した。そのときのわたしは、家にいてみんなの合否発表を聞く係だった。お母さんは、祝いの品を作る係だった。


(合格するには、F級2体あるいはE級1体を倒すだけでよかった。)


 なので、例年9割9分の人が合格した。

 残りの1パーセントの人はというと休んでしまったのがほとんどだ。


(まあ、その人も追試で合格するので、毎年留年するのは、せいぜい1人だろう。)


 わたしは暇だったので、お母さんを手伝おうとして声をかけた。


「ママ手伝おうか?」


 と。


 しかし、その返事は爆音にかき消された。


「いったい、何があったのかしら……!あれを見て!」


 お母さんが指差すその先には黒煙が上がっていた。


「えっ、あの方向って……」


 そこで、2度目の爆音がなる。今度は、それだけではない。魔獣の雄叫びのようなものも聞こえる。


「ウォーン!」


 それは、もがいているような声では無かった。むしろ、楽しんでいるような……。


 わたしは飛び出さずにはいられなかった。


「みんな!」


 と、言い剣を取りなりふり構わず家を飛び出した。


「おい!外に出るな!」


 と、いうお父さんの声が聞こえたような気がしたが、すでに遅かった。

 音を察知したのか、何かが火の上がっている方向から走ってきた。

 それは、魔物では無かった。人だ。それも、わたしがよく知っている。


「先生!無事だったんですね!早くこっちに!」


 先生は言った。


「わたしのことは気にするな!早く家の中に入るんだ!あいつは、少なくともA級……」


 先生の声はそこで途切れた。

 その代わりに、


「グチャ……ボキッ……。」


 血肉が飛び散る音。骨が砕け散る音。

 そして、わたしは目にした。いや、目にしてしまった。その光景を……。


 それは、地獄のような光景だった。

 明らかに試験用ではない異形な魔物がさっき先生がいたところで何かをしている。いや、食べている。


(もう、これ以上は見たくない。)


 そんな思いとは、裏腹に視線はどんどん下に……。

 そこには、何も無かった。魔物の口元を思わず見てしまう。そこには、鮮血と腕が力なくぶら下がっている……。


 魔物が口を開けた。このまま飲み込むつもりなのだろう。中にいるもの、いや、あるというべきものを。その物体は、最後の力を振り絞り、声を出した。


「早く……逃げるんだ……。巻き込まれてしまう……。」


 わたしは逃げた。そして、10メートルほど離れ1度振り返る。魔物は、未だに抵抗する物体に手こずっているようだ。


「よし、離れたな!最後の授業だ、結花(ユカ)さん!こういう時にすることは?」


 ちょうど、1週間前の授業にしたことだ。でも、それは声に出すにはあまりにも残酷だった。


「なるべく、魔物にダメージを……与える……ことです……。」


(そう、それが自分の命をみずから断つことになっても……)


「正解だ!結花さん!先生がすること……わかるな?」


 それと同時に爆発音が炸裂する。魔物は、首から上が吹き飛んで無くなっていた。


「先生……。」


 思わず声を出す。

 魔物は動く気配を見せない。


「終わったんだ……。そうだ!みんなは?」


「全員……死んだ……俺たち以外……村の人も……。」


 後ろを振り返ると、そこには、お父さんがいた。背後にはお母さんも。


「お父さん……お母さん……。」


 お父さんの体にしがみついた。わたしは泣かずにはいられなかった。そうでもしないと狂ってしまいそうだった。だが、それだけでは終わらなかった。


「カチャン……」


 何かが落ちた音がした。それもすぐ近くで。

 それは、お母さんの持っていた護身用のナイフだった。

 お母さんの胸には剣が深々と……。

 一撃で仕留めるには十分な威力だった。

 そしてわたしは潤んだ目で今回の元凶を目にした。


「お……とう……さん……?」


「実に愉快な話だろぅ!?モンスターを操り村を壊滅させ、お母さんを殺したのがじぶんのお父さんだったなんてなぁぁぁァァァァ!!」


(狂ってる。)


 わたしはそう直感し、バック転の要領で一発蹴りを浴びせると一定距離離れた。


「いいね。いいね〜!そうこなくっちゃ!

 わたしも育てがいがあったというものだよ!

 さて、わたしも本気を出すとしますか。」


 そういうと殺人鬼は力をためる。すると背中からコウモリのような羽根が生えてきた、ように見えた。


(わたしはもうその時壊れてしまったのかもしれない。)


 見えた。

 と、いったのも力をためていようが関係なしに攻撃したからだ。しかし、それだけでは、明らかに威力が足りない。そこでわたしがとった作戦は、局部を一撃、シンプルかつありったけの力をこめて。


 それに殺人鬼が気づいた時にはもう、遅かった。


「うおっ、それは反則だっt……。」


 確かに相場はそう決まっているのかもしれない。しかし、大きな隙があったら攻撃するというのも、また同じである。


 そんなこともあり、

 倒すのは無理だったがスタン(悶絶)

 させることはできた。

 それと同時に羽根のような影も消える。


「来い!我がしもべよ!」


 反射的に反応する。


「わたしは、お前のしもべなんかじゃない!」


「お前は、いつも、いっつも、甘ぇんだよ!」


 直後、足に強い痛みを感じる。


「え……?」


 そして足を見る。するとそこには、2、3センチの黄色いヒルのような生物がくっついていた。


(たしか、こいつは……。そうだ!魔虫図鑑で見たことがある。名前はキイロキセイヒル……特徴は……相手の体内に忍びこんで操り最後は……)


 そこでわたしは考えるのをやめた。

 それ以上考えてしまったら……。


「ハッ……ハハハハ!ブザマだなァ!

 その絶望したような顔最高にいいぜ!

 ほら、もっとこっちにその顔を見せておくれよ!」


 しかし、次に見せた顔はどのようなものだったのだろうか。わたし自身も覚えていない。もうヒルに操られていたのかもしれない。


 次に意識したとき、わたしは倒れていた。

 血だまりの中で。

 あの殺人鬼はどこにもいない。

 しかし光景は、最後に見たところと変わりない。


 そしてわたしは立とうとした。


「痛っ!」


 思わず声を上げる。


 そして、わたしは今、わたし自身のおかれている状況に気づく。裸だ。なぜか裸だ。


「え、えええええええ!?」


 い、いったい何が……。

 そして何かが違う。肩のあたりに違和感がある。とりあえず、肩を回してみる。


 ふわっとした何かに手が触れる。

 急いで背後を振り返る。

 しかし、そこには変わりない光景が広がっている。


「バサッ……。」


 今度は背後で何かが羽ばたこうとしているような音がする。


 また、背後を振り返る。

 しかし、そこにも変わりない光景が広がっている。


「バサッ……。」


 またか。

 こうなったら正体を暴いてやる。

 意地になって正体を暴こうと背後を振り返ること数十回……。


「ハァ……。」


 諦めるしかなかった。何度やってもその正体は現れない。


「とりあえず、家に帰ろう……」


 と、言っても誰もいない。っていうよりも家自体があるかどうかも微妙だが。


「今の光景、見てた人がいたら……」


 わたしは恥ずかしくなり、足を早める。

 今の光景。つまり、裸の小6がその場で何度も回転していたのだから。


 ーー家ーー


 もともと家があったであろうところについた。

 家は、半壊していた。


「えっと、ここがリビングだったんだから……ここだ。よかった。わたしの部屋はなんとか無事だ。」


(だ、誰もいないよね?こんな姿みられたくないよ……)


 覚悟を決め、わたしはドアを開ける。


(よかった。だれもいないみたいだ。でも、うれしいような……悲しいような……)


 さて、それはさておき。


 なんか、体がつっかかって入れないんですけど……。


 肩はつっかかってないし……でもそこらへんでなんかふれてるような気がするんだよな。

 横向きなら……どうかな。

 なかなかにシュールな光景である。


 裸体の女子が横歩きで部屋に入ろうとする光景……やめておこう。


 さて、これなら入れるだろ……わたしがドアの方向を向いたときである。


「羽根だ。いや、羽といった方が正確かもしれない。まず、わたしは床に落ちている羽根に気がついたのだが、


「あ、羽根が落ちてる。」


 程度にしか思わずスルーして、視線をドアに向けた。そのときだった。ドアとわたしのあいだに羽が割り込んでいた。わたしは、その根元?というべき物体を探した。


「わたしだ……。わたし、羽が生えてる。でもなんで……?」


 思い当たる節は1つしかない。例のヒルだ。あのとき、考えかけてやめた、その時の思考を再開する。最後には……。


「そうだ!最後には9割9分9厘の人が死ぬと書いてあった。でも、それに耐えた人は……何か特別な力を手にするという……。」


 と、お母さんが言って、他の人からからかわれていた。


「お母さんが言っていたことは本当だったんだ!お母さんは嘘つきじゃなかったんだ!」


 しかし、自分がこうなるとは……。

 しばしの間考え込む。


「うん。とりあえず、着替えよう。というより着よう。」


 問題は、この羽だ……。

 デカイし、動きづらいし……。服に入る……?

 とりあえず、自分の部屋に入ることはできた。

 鏡で、自分の羽の全容を見る。

 まるで天使の羽だ。


「きれい……。」


 思わずうっとりする。


「うーん……。結構大きいな。これ出し入れ出来たりしないのかな……。」


 とりあえず、試行錯誤してみることにした。

 鏡で、羽のつけ根を確認し、そこに意識を集中させる。すると、羽の形状が変わった。今の羽は、まるで、妖精の羽のようだ。


(わたしはこっちの方が好きだな)


 ……じゃなくて、服だ。さっきより羽が小さくはなったがこれは果たして入るのか?とりあえず着てみる。何かがあってもいいように、上はボロいやつで試す。


「よかった……。着れた。」


 鏡で自分のすがたを確認する。

 羽が出ている。


「ええっ!?」


 思わず、驚嘆の声をあげる。

 つまり、服に穴が……。


(空いてない。)


 そういえば、羽に触れた感覚もなかったな。

 なくなっちゃったのかな……。

 鏡で再度確認する。しかし、羽は存在している。

 つまり、この羽は物体を貫通できる?ということだ。しかし、これはすぐに否定された。


「さて、着替えたことだし、出かけますか。」


 こう言った直後である。

 不意に鏡を見る。

 羽は直接生えてるのではなく、浮いていたのだ。


 若干の戸惑いを覚えつつも、わたしはもう戻って来ることは無いだろうこの場所に別れを告げて村(跡地)をさった。


 だが、この羽は飾りものにしておくには惜しい。

 一体、どうやったら飛べるのだろう?

 常識的に考えれば、羽が生えてる場所に力を入れ、動かせばいいのかもしれないが、この羽の場合、直接触れているところがない。とりあえず、その羽の延長線上のちょうど肌と触れるであろうところに力を込めて動かす。


「ビンゴ!」


 羽がかすかにだが動いた。

 ただ、力を込めてもこれなのだから……先が重くなりそうだ。

 でも、どう考えてもこれはおかしい。

 精一杯の力でこれだけとは……。

 何か力の入れ方にコツがあるに違いない。

 その時、太陽を一瞬の間小さい影が遮る。

 大きさ的に鳥ではない。

 ちょうど、手のひらサイズの例えるなら妖精のような……えっ、妖精!?

 とりあえず、無理だろうが呼び止めてみる。


「えーっと、そこの方?ちょっとすみません。」


 妖精?は気にせず遠ざかっていった……ように見えたが、5メートルぐらい離れた所で停止すると、ものすごい勢いで戻ってきた。


「今、私のことを呼んだ!?」


「う、うん。」


 彼女の驚きっぷりに気圧されつつ、戸惑いを隠せないままわたしは答えた。


「へぇー、珍しいこともあるもんだなぁ。もう森人(エルフ)族が見える人はいないって言ってたんだけどな。で、なんで呼び止めたの?」


「実は……なんか色々あってわたし、あなたと同じような羽が生えてるの。」


 またも、彼女は尻もちをつくほど(厳密にいえば空中でバック宙をした……?)オーバーリアクションをとった。


「ええっ!?

 ああ、目が回る……。

 んで、その羽をどうしたいの?

 切り取る? 

 まあ、それはないか……

 じゃあ、やっぱ飛び方のレクチャーをすればいいの?」


「うん。」


 コクコクとうなずく。


 わたしは彼女のことをなんとなく初期印象から

(バカっぽいなぁ。)

 と思っていたが、

 意外としっかりものだったらしい。

 また、わたしのような人は本当に珍しいのであろうことも分かった。


「じゃあ、羽を展開してくれる?」


「えっ……。」


 これで最大じゃないの?わたしの頭に疑問符が浮かんだ。


「ほら、なんかアレ、ケモケモしてるヤツ。あれでだいたいの魔力と特徴がわかるからさ。うーん、私の場合は……。」


 そういうと、彼女は羽を展開?した。

 すると、彼女の羽は薄くて透明といういかにも妖精、というものから鳥類を連想させるものになった。


「こういうこと。

 なんか、こんな感じの見たことあるでしょ。

 そうでなきゃ、あなたの今の状態、

 まあノーマルモードって言うんだけど。

 それにしないはずだから。

 やっぱ、目立ってたんでしょ。」


 図星である。

 やっぱり、彼女は賢いのだろう。


「こんな感じかな。じゃあ、やってみてよ。」


 そういうと、彼女の羽は元の妖精の羽に戻った。


「うん。」


 と返事をすると、わたしは、羽を展開した。

 案外すんなりいったので、わたしにも若干の戸惑いがあった。


「えっと……これでいいの……かな?」


 私の背中にはいい表すなら、天使。といえばいいのだろうかその羽が展開された。


 彼女は、それを見た途端、時が止まったように固まる。羽の振動もあまりの驚き、いやこれは恐怖にも近かったのか硬直している。


 硬直し落下してくる彼女を受け止める。それで、ふと我に返ったようだ。


「ど、どうも、失礼をお掛け致しました。先程の無礼をお許しください。」


 彼女は、いたって冷静を装っているが、声に先程には無かった震えがあるし、顔もまだ引きつっている。


 彼女が緊張していたら、できることもできなくなってしまう。私は、出来るだけ優しい口調で彼女にゆっくり語りかけた。


「えっと、なんかこの羽がすごいっていうことは、わかったんだけど、実際に教えてくれる?」


「は、はひ!」


 だめだこりゃ。冷静さも欠いてしまっている。

 どうするべきか。こんな時は深呼吸だろう。


「とりあえず、深呼吸しようか。

 せーの!

 ひぃ、ひぃ、ふー。

 もう一度!

 ひぃ、ひぃ、ふー。」


 なんか違う気もするがとりあえず落ち着いたらしい。改めて聞いてみる。


「とりあえず、説明よろしく。」


 至る場所を端折って伝えたが伝わったらしい。


「えっと、貴女様……。」


 遮るようにいう。


「ちょ……ちょっと!なんか、話しづらいから、さっきと、同じような感じで良いから。」


「そういう訳にもいきません。

 貴女様は 絶対 なのです。

 貴女様が持っていらっしゃったその羽は

 森人族の中では最上位の方のみ生えているというセラフの羽なのですから。」


「ちょっと待って。今、わたしは 絶対 と言ったよね?」


「はい、たしかに。」


「じゃあ、その敬語口調をやめなさい。めんどくさくて、ありゃしないわ。」


「はい、仰せのままに……。って、ええ!?

 い、今なんと仰いましたか?」


「だから、その敬語口調がウザいからやめてって。」


「……。」


「……。」


「……。」


「わかりました。では、わたしをサポート役と置いてくださってもよろしいですか?」


「ほら、そこ!まだ直ってない!」


「す、すいません。じゃあ、わたしが心配だからついてってあげる!」


 急に偉そうになったな。偏り方がひどいな。

 と心の中では思いながらも、

 頼もしい仲間が1人、いや、1匹か?まあ良い。

 増えてくれて嬉しい。


「でも、仲間とかは大丈夫なの?」


「うん。これでも、旅立ちの儀を終えた一人前のエルフ……なんだよ。」


 エルフの後少し黙ったことに若干違和感を感じたが、そのまま話を続けた。


「でも、今はニンゲンが主に土地持ってるけど買い物とかはどうするの?まさかスリとか……?」


「さすがにそれほどじゃないよ。しっかり買いに行くよ。まあ、盗賊の奴らは例外だけどね。」


「ふーん、エルフにも色々いるんだね。でもどうやって?」


「こうやって」


 と、いうと彼女はちょうど私ぐらいの子に化けた。


「あれ?驚かないんだね。今はこっちの方が都合が良いからこのままで行くね。」


「まあ、色々あったからね。で、本題に入りたいんだけど、いい?っていうか、その前に挨拶しておこうか。」


「わたしは結花(ユカ)、緋井 結花(アカイ ユカ)よろしく!」


「いい名前だね。

 私は、シルフィー=スカーレット。

 これでも、精霊とエルフの間に生まれた、

 ハーフエレメント、ハーフエルフなんだ。

 まわりからは、忌み子として気味悪がられたから、バレないようにしてるんだけどね。」


「色々、お互いに大変だったんだね。まあ、これから、よろしく!」


 わたしたちは、ハイタッチをして、本題に入った。


 練習は、およそ3日間にも及んだ。


 1日目


 最初は滑空することから始めた。さすがと言ったところか。

 シルフィーは風属性の魔法に長けていて、もし落下しても風魔法を使い助けてくれた。

 何度かは調整を誤ってしまったのか、

 強風で打ち上げられたり、詠唱に失敗して、そのまま地面に叩きつけられたりしたが、その時も回復魔法で助けてくれた。


 2日目


 離陸、着陸、飛行という全てのことを行なった。

 流石に飛べた時の感動は計り知れなかった。

 ……ここまでは順調に来ていたのだが。


 3日目


 ここまででやる事は全て終わったのだろうと思っていた。

 しかし、ここまでは 展開 していない状態の羽での飛行だった。

 展開していない状態での飛行は、幼稚園レベルだったらしい。

 では、展開した時はどうなのか。それは、小学1年生レベルのことらしい。


 そう思って なめて かかっていたのが間違いだった。


 力のコントロールが全くと言って良いほど効かない。


 1回目は、ロケットのように飛び、危うく宇宙の星になってしまうところだった。


 2回目は、力を入れなすぎて10センチ浮いただけだった。


 このように繰り返すこと数百回、あたりはすっかり暗くなっていた。


「ハア……ハァ……。」


「流石に疲れた?よね。今日はもうやめる?」


「じゃあ、これで最後にするね。」


 まあ、ここで成功するのが定めというものだろう。


 案の定、成功した。

 それだけ で終わってくれれば良かった。

 しかし、それほどこの世界は 甘く なかったのだ。

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この世界では強い俺も彼女たちには適わない 十六夜 遼 @Ryo1341

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