第6話キズナ

「俺の妹を返せ!」


とは、言ったものの

俺には妹の身体を傷つけるなんてことは

出来ない。

たとえ、中身がバケモノだとしても。

とりあえず、どうにか時間を稼ごうとした。


(しかし、リリスのスピードは圧倒的だった。

故に俺は、防戦一方とならざるを得なかった。)


しかし、リリスにも弱点があった。

それは、常に宙に浮いていることだ。宙に長時間いることは、かなりの精神力を要するのだろう。そのためか、リリスにも疲れのいろが窺える。

しかし、それは、俺も同じことだ。

俺は、リリスの攻撃を1発受け流し損ねた。


「ぐっ!」


とんでもない速度の攻撃を喰らった俺には、もう、起き上がる気力もなかった。

倒れた俺にリリスは最後の言葉を言う。


「珍しく、兄妹そろって楽しませてくれたわ。"ありがとう"と言っておくわ。」


と言いリリスは、魔法を唱え始める。

どうやら、楽しませてくれた褒美に最大級の攻撃をプレゼントしてくれるらしい。


「またな。ユウヒ…次の世界でもこうして…」


もう、それを言う時間もないらしい。

リリスは微笑んで


「サヨナラ」


と言い、俺に呪文を放った。


「メラ◯ーマ!」


燃え盛る炎の玉が飛んでくる。


「俺は、ここで…。」


「あきらめないで!お兄ちゃん!」


目の前に障壁が生成される。

それに、今の声は…ユウヒ!?

障壁は、俺を炎の玉から護りそして、消えた。


「小娘め、小癪な!こうなったら、別のやつに乗り移って2人まとめて、相手にしてくれるわ!」


と言うとリリスは、親玉に乗り移ったようだった。


(心臓もないのにどうやって動いているのだろうか。)


なんて、考えている暇はない。


その時後ろから、ユウヒの声がした。


「良かった。お兄ちゃん、間に合って。」


ユウヒは大粒の涙をこぼしながら、


「Healing.」


と言った。

俺は、身体の傷が癒えていくのを感じた。


(何故ユウヒが呪文を?)


それは、あとへ置いておくとして、


「ユウヒ、援護頼めるか?」


「任せて!」


実に頼り甲斐のある声が聞こえた。


「Speed,power enchant and regenelation.」


(やべぇ、何言ってんのかわかんねぇ。)


(あ、そういえばお兄ちゃんは、英語が悲惨だったんだっけ。じゃあ。)


(あれ?なんかお兄ちゃんの考えがわかる。なんでだろう?)


「攻撃、移動速度エンチャント、自己回復力強化」


(ナイス!)


と、俺は思った。そしてなんとなく、ユウヒの考えもわかる気がする。


「さて、勝負だリリス!」


圧倒的だった。

リリスが弱体化、ユウヒが完全適合者だったからか、

それともユウヒの呪文のおかげか、

明らかに、さっきと状況が逆転している。

しかしリリスもやられっぱなしではない。

少しでも隙ができると、中級の呪文を連発してくる。

まあそれも強化された状態のときの剣では、軽く捌けるが。

リリスの耐久力は凄まじかった。

ユウヒが俺にかけた自己回復強化の3倍ぐらいのやつがかかっているのだろう。

それに手一杯だったのか他の呪文は中級レベルしか使ってこなかった。


ユウヒの援護もあり俺はリリスから特に大きなダメージを受けることもなく、戦い続けた。


ーー10分後

「…………っはあ……はあ…………いい加減、死にやがれ!」


「そのぐらいじゃ、わたしの体力は削りきれないわよ。」


「ユウヒ!もう少し、俺の攻撃面強化できるか?」


「……。」


ユウヒは次の詠唱にはいっていた。

それも強化ではない。攻撃系の呪文だ。と、感じた。


「させるか!」


リリスはユウヒにターゲットを変え、とてつもない速さでユウヒに近づく。


「もう、遅いわ。」(あとちょっと借りるねお兄ちゃん。)


とユウヒは言った。または、感じた。


と、同時に俺はもっていた剣をリリスに向かって投げる。その後、高まる魔力の流れに集中する。


「ミ◯デイン!」


兄妹の声が重なり、雷鳴が鳴り響く。

狙ったのはリリスではない。その後ろの剣だ。


リリスはびっくりしたように、後ろを振り返る。


そこには、雷炎と化した剣があった。


「ギガブ◯イク」

級の技の威力を誇るだろうが、

これは、「ギガ◯レイク」ではない。

「ギガス◯ッシュ」だ。


「わたしが、この私が、こんなところで!やられるわけが……!」


雷炎と化した剣がリリスの身体を貫く!


リリスはこの世のものならざる声をあげ、灰になり消滅した。


「お……終わったのか?」


俺はユウヒを、ただ一人の俺の妹を見る。

ユウヒの目には涙が溢れていた。

俺の涙腺ももう駄目だった。


「うっ……よかった……ユウヒが無事で……。」

兄としては恥ずかしいものを見せる形だったがその熱いものを抑えるほどの気力は無かった。


「わたしも、お兄ちゃんが……無事で……よかっ……た…………」


ユウヒが俺に力無く寄りかかる。


「ごめん……ちょっと……疲れちゃったみたい…………。ちょっと休ませて。」


「ああ。」


というとユウヒは目を閉じすぐ寝てしまった。それも無理はない。あんなに、大活躍だったのだから。

俺はユウヒを壁にやさしく寄りかからせると、


「さて、話を聞かせてもらおうか。AI(人工知能)さん。」


俺はコンピュータに向かって話しかける。


「何故、わかったのですか?」


「あいにく、耳が良いものでね。機械音が聞こえたんだよ。で、なにが目的だ?」


「あなたたちと、神話生物の監視。また、戦闘データの収集。」


「なるほどね。で、何故俺たちの監視もはいっているんだ?」


「あなたたちは、記憶を失った。それは、この団体の一名の暴走が原因。で、記憶が戻り次第帰す予定だった。だがしかし、あなたたちは、想像以上の逸材だった。」


「それが、ユウヒがリリス完全適合者だった、と。じゃあ俺は何なんだ?」


「常人以上のステータスでした。それも飛び抜けて。……魔術適正以外。ユウヒさんはステータス全てがあなたより上、しかも魔術適正に至ってはここの研究員も目じゃないほど高かった。」


「最後に、ここはどこだ?一体、いつなんだ?」


「24XX年 日本 」


それを聞いて俺は疑問が浮かんだ。


「たしかって言っても記憶が曖昧だが、俺たちは21XX年に生きていたはずなんだが。」


「はい、たしかにそうです。しかし、あなたたちは、極度凍結(ディープフリーズ)状態になっていて……」


「施設爆破まであと3分」

無慈悲にアナウンスが響き渡る。


「すみません……時間がないようです。伝える事があります。

 ここは、あの時のように平和な世界ではありません。

モンスターが出現します。ですが、心配しないでください。お二人の力なら大丈夫です。

まず街まで行きギルドに入りなさい。そこで今の現状を聞きなさい。街の近くまではわたしの力で送ります。

さあ、ユウヒさんもこっちに。」


俺は、ユウヒをおぶって再びコンピュータの前に戻ってきた。


「では転送します……あと、これを……。」


というと、電子機器?っぽいものを強引にポケットに入れられた。


「これは、何だ?」


「旅の役に立つでしょう。

そして、最後に質問です、何故あのような息のあった行動ができたのですか?声もなしに。」


「まあ、兄妹だから?いえば、"兄妹の絆"かな」


「なるほど、面白いですね。しかしもうお別れのようです、さようなら……」


悲しむようなAIの声を聞くと同時に白い光に景色が包まれていく……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る