第5話わたしの記憶

「あれ、ロープが……。」


わたしがそう気づいたのは、霧が出てすぐだった。

そして彼もいない。


(どうしよう、彼を呼ぶには……名前で呼ぶにも何にもわからないし……。)


とりあえず大きな声で、


「変態ロリコン!どこなの?」


と、言ってみた。


しかし、返事は返ってこない。


とりあえず、私はその場に留まって彼を待つことにした。


「ザッ、ザッ。」


何かの足音が聞こえる。


その足音は、徐々に大きくなってくる。


私は数メートル先に、誰かの人影を見つけた。


私は、警戒せずにその影に向かい走った。


それが、彼だと信じて。


しかしその私の予想は、裏切られることとなった。


そこには、どこかでみたことがあるような気がする少女がいた。


「あなたは?」


と、少女がきいてきた。


「私の名前は、影野 ユウヒ。」


「そう、やっと見つけた。完全適合者を。」


私は、少女の言っている意味がわからなかった。


だが、この子からは離れなければいけない。

本能が、そう叫んでいる。


私は精一杯、この子から離れた。


「Speed enchant.」


少女が、そう言っているのが聞こえた。私は足には自信があったのだが。私の予想が正しければ…

やはりというべきか横を見ると、もう少女が余裕そうに並走していた。


 私もダメ元でやってみた。


(足に意識を集中させ、その足に力を送る感じで。)


「Speed enchant.」


少しだけだが早くなっている。

私はそう確信した。


「さすがは、完全適合者ね。」


でも遊びは、終わり。


「teleport.」


この瞬間私は見えない力により、宙へ持ち上げられるとともに瞬間移動した。


「ガクン。」


頭に強い衝撃がはしり、私は意識を失った。


「やっぱり、初テレポートの際は頭に負荷がかかるね。」


「そうね。じゃあ……転生の儀の準備を……。」


--------


「う、うーん。」


ここは私の家、私の部屋。


「おい、起きろよ!もうこんな時間だぞ!」


彼の声が聞こえる。私は確か捕まって……。


「ええ!?な、なんでここに?」


私は、叫びながら跳ね起きた。


「な、なんでって…。こんな時間だし、鍵空いてたし…。」


「そうじゃなくて!なんであなたがここにいるのよ!」


「い、いや。俺たち、兄弟じゃないか。」


「へ?」

正直、彼の言ってることがわからなかった。


「ついに、ユウヒ。お前も俺たちの仲間入りか。とりあえず、顔でも洗ってこいよ。」


目が覚めた。と、同時に

だんだん、過去の記憶が戻ってきた。


(確かに、私たちは兄弟だった?)


じゃあ彼の名前……いや、お兄ちゃんの名前は……。

ここで、ノイズが入る。

そのノイズは徐々に大きくなって、私の記憶を……。

「私の名前……は?」


--------


「私は、ここで何を?そして私は、だれ?」


私は、祭壇?の上に吊るされていた。


「完全にDelete出来たみたいね。」


「ようやく、お目覚めね。完全適合者さん。

いきなりで悪いけど、転生の儀を行うわ。」


「貴方はだれ?転生の儀?」


その女の人が合図をすると、どこからともなくコーラスが聞こえる。


(まるで、これは神に捧げる……。)


と思ったその刹那、男の人が入ってきた。

見覚えがあるようなその容貌は、

好感とともに懐かしさを呼び起こさせる。


「あなたは……。」


と私は、声をかける。

だが、コーラスの声に打ち消され、その声は届かない。


「う、うわぁぁぁぁぁあぁ!」


頭が痛い。それも痛いというより頭が何かを拒絶しているような…。


 彼女は転生の儀と言っていた。

一体なんのことなのだろう。


下では例の人が戦っている。


私は頭の中に意識を集中させる。

そうすると、ここは森かな?

いや、霧が深い樹海と例えた方がいいだろう。

そのなかにひときわ目立つ光を放つ物がある。

(あれは、私の記憶?)

私が、それに触れるのを拒むように霧が視界を木が道を遮る。

がむしゃらに走った。あの記憶を目指して。

ついに本体が輪郭をあらわにした。

「はあ、はぁ……。よ、ようやくこれで全てを思い出せる……。」


私は、球体に手を近づける。

しかし、その手を何かがはらった。


「困るねぇ、そんなことしてくれちゃ。」


私は、声をかけ、阻害をしてきた主をみた。

そこには、もう一人の私がいた。


「あなたは?」


「そんなのもう分かり切ってるじゃない。」


「私は新しい、影野 ユウヒよ。」


「いや、どうせ消える前の私には真実を伝えておくわ。

私はリリス、こんにちは。かしら、依代さん。」


つまり、このリリスという女。

というよりかは、神話生物。は、私の身体を乗っ取るらしい。

これが、転生の儀の真実。


私の身体をリリスというバケモノに乗っ取らせる。

という恐ろしい儀式だったのだ。


「あなたの記憶が戻っちゃったら、私の付け入る隙が無くなっちゃうじゃない。」


「やっぱり、これは私の記憶なのね。」


リリスは、私の記憶の結晶に向けて、


「teleport.」


と、術式を唱えた。


すると、記憶の結晶は移動した。私とリリスの中間に。

これは、リリス自身戸惑っているらしい。

私は確信していたのだが。


 ここは、私の潜在意識の中。

私の意識が一番に優先されるのだろう。

じゃあ、こんなことも。

私が意識すると、背景が変わった。

ここは、太陽が照りつける砂漠。


「う、うわぁぁぁぁぁあぁ!」


リリスは、日光に弱かったらしい。私は、

バケモノの目が眩んでいるうちに、私の記憶の結晶を……。

ない。さっきまであったはずところに駆け寄るが、ない。


「あれ、記憶の結晶が……ない。」


その時後ろから、声とともに音がした。


「探し物はこれ?」


パリンといやな音がする。


「なぜ、そこに?」


「今のは、演技だからよ。」


と、聞き私は、リリスの手を見る。

リリスが持っていたのは私の記憶の結晶。

そして、それには、ヒビが。


「や、やめて!」


「やはり、人間の絶望とは甘い蜜のようじゃのう。」


私は、出せる最高速度でリリスに体当たりした。

 しかし、リリスはびくともしない。


「やれやれ、そんなもんなの?まだ全力じゃないのでしょう?もっと本気を出してよ。」


リリスは水晶をより強く握りしめる。


ピキピキと水晶は、より大きくいやな音を立てる。


「限界突破(オーバーリミット)」


意識せず言葉が出る。


「ほう?やればできるじゃない!

さあ!もっと、もっと!私を楽しませて!」


私は、狙いを水晶に集中して、あとは身体の求めるままにうごいた。


圧倒的にリリスを上回る動きで圧倒していた。

だが、


「ピシピシ、パリン!」


水晶が砕けた。

その瞬間、私の全ての力が抜けた。


「所詮、水晶による一時的なものか。」


リリスはそういった。

力がぬけ、もう動けない私に一瞥すると霧の中に消えてしまった。


それが彼女、

いや、バケモノの間違いだった。

砕けた水晶は少しずつ私に集まってくる。


「少しだけ踏ん張って。私も遅れて行くから。」


向こう側の彼にそう言い、私は集中した。


ーー 一方、現実世界。ーー


彼こと影野 蒼は、戦闘を続けながら、妹のユウヒの様子をうかがっていた。

そして今残すは、親玉のみになった。


「お前!ユウヒに何をした!」


「彼女は、完全適合者だったの。リリスのね。」


(リリス、聞いたことがある。確かそれは、神話の中だけの話じゃ……)


そう考えてた時、ユウヒに動きがあった。


「お、おお!偉大なリリス様!

ついにお目覚めになられましたか!」


と、親玉がいった。


「わらわの復活の儀をしたのは、お主か?」


(どういうことだ?身体はどう見てもユウヒのものなのに。まさか!復活の儀は……。)


それと同時に、


「はい、そうです!私がリリスさ……ま……を?」


「うるさい。黙れ。」


リリスは瞬間移動し、親玉の横につくと、軽く彼女の心臓をもぎ取った。

しかし、その手には、血がついていない。もちろん、傷口にも。


一般人なら見えない速さだが、幾度も早い竹刀を見てきた俺には、わかった。

しかし、彼女は理解していないような顔で絶命した。


俺は、激情に任せおじけることなくいった。


「俺の妹を返せ!」

と。

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