第31話 春

 やっと春になったせいか、外は穏やかな気温が続いている。

 外に出かけたいけれど、ルーフスに「私がいない時は家でおとなしくしていろ」と言われているので、外にも出かけられない。

 あーあ、いい天気なのにな。

 ルーフスは今日サキュバスに呼ばれたとかで出かけて行った。

 まだ魔界の問題が解決しないらしく忙しいらしい。

 私を巻き込ませない為のお出掛け禁止令だろうけど、ちょっと過保護すぎじゃない?

 人間の私なんか狙われるわけないのに。

 魔界から比べたらただの一般人と変わらないのよ?

 ピピピ。

 その時ラインが鳴った。

 見ると、上野さんからだった。

 あの新宿以来まったく連絡がなかったのに珍しい。

 「元気?」と書いてある。

 「元気です。上野さんは?」

 と、嬉しくて返事を打つ。

 「元気だよ。もし今日暇なら美味しいスイーツを見つけたんだ行かない? タルト専門店らしいんだ」

 思わぬお誘いに浮き足立つ。

 ちょっとくらいならいいよね?

 まだ昼間だから、危ない事なんてないだろうしね。

 マレの様子を見に行く。

 出窓で気持ちよく日向ぼっこをしていた。

 マレはなぜかルーフスのお目付け役なので、見つからないようにしないとね。

 私はそっと、家から出掛ける事に成功した。


「遅くなってごめんなさい」

 学校の最寄り駅で待ち合わせる。

 本当は池袋で会いたいと言われたが、ルーフスにバレないようにすぐに帰れるよう家から近い学校の最寄り駅にしてもらったのだ。

「今日は天気がすごく良いね」

 相変わらず爽やかな上野さんの笑顔。

「はい。こんな時は出掛けたくなりますよね」

「じゃあたまには公園の方まで行ってみない? 桜がまだ咲いているようだよ?」

「はい、是非。私桜好きなので行きたいです」

「僕もなんだ。桜が1番好きでね、毎年見に来るんだよ」

 そう言えば今年は桜あんまり見てないな。

 この前ルーフスと一緒にママの病院へ行く途中、桜の木を見かけたくらいだわね。

 のんびりと公園への道を並びながら歩く。

 上野さんと一緒にいて心地いいのって、こうやって歩調を合わせてくれるところなのよね。

 そういうところが安心できる。

「ここらへん初めて歩きました」

「そうなんだ。けっこうオシャレなお店が多いから見ているだけで楽しいでしょう?」

「はい」

 でもセレクトショップが多いので、それなりに値段もいい。

 お金持ちの町なのかしら?

「何かみたいのとかある?」

「いえ、特には」

 高いお店で見たとしても買えない。

 ならば見るのは目の毒というもの。

「早く桜が見たいかな」

「そっか。あそこのお店とか可愛い服が外に飾ってあったから、エルちゃんに似合いそうだったのに残念」

 見ると白いレースのシフォンワンピースが飾られてあった。

「本当だ、可愛い」

「でしょう? せっかくだし試着してみてよ」

 上野さんにしては珍しく、強引に腕を引っ張る。

 あれ?

 この感触、どこかで触れられた記憶がある。

 なんでだろう。

 上野さんに腕を掴まれたのは今が初めてなのに不思議。

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