第30話 葛藤

 ウリエルの動きがピタリとない。

 何もない事に越した事はないが、これはこれで気持ちの悪いものだ。

 そしてそれと同様に、サキュバスの動きも止まっている。

 サキュバスは、ウリエルがエルを狙っている理由を知っているのだろうか?

 普通に考えると、それはなさそうだ。

 ウリエルの用心深い性格を考えると、手の内を明かすとは思えない。

 サキュバスのヤツもアダムに会わせるからと言われても、何も情報がないのに加担するとは思えないのだ。

 だが普通に聞いても、どっちも教えてくれなさそうだな。

 しかしこの件をあまり放置するのも得策ではない。

 なぜならウリエルは確実にエルの命を狙っているからだ。

 エルは20歳までしか寿命が見えない。

 それは悪魔の私からしたら、初めて会ったあの日に一目で気付くくらいだ。

 天使であるウリエルもそれは分っているはずだろうに。

 なのになぜ命を狙おうとする?

 ほおっておけば、あと数年で死ぬものを。

 悪魔まで使って、何をやっきになっているのだあいつは。

 こんな時にミカエルがいれば、解決できるというのに。

 あいつの意識を探してもまったく見えてこない。

 あいつはいったい、何をしているのだ。


 しかしそれとは別に、最近楽しい。

 エルとの関係が良好なせいか、毎日を穏やかに過ごす事ができている。

 悪魔が穏やかと言うのも妙な話だけどな。

 マレもやっと失恋から立ち直れたらしく元気になってきたみたいだ。

 このままエルが20歳になるまで穏やかな日々が続けばいいのに。

 いや、私が続かせないとな。

 それくらいは彼氏として役に立とう。

 でも・・・。

 その後はどうすればいいのだ?

 私はエルの魂を喰えるのか?

 たしかに美味しそうだとは思う。

 どの食事よりも美味しいだろう。

 でも・・・。

 私は心の葛藤を認めたくなかった。

 とりあえず、その時に考えればいいか。


 さて出掛けるとするか。

 今日はサキュバスに話があると呼ばれていたのだ。

 たぶん、今回の一連の騒動を話す気になったのだろう。

 それがどこまで信用できるかは分らないが、少しでも探る材料になればいい。

 エルには危なくないように、この家全体に結界を張っているから大丈夫だろう。

 出かけるなと念もおしてあるしな。

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