第29話 ママ
学校へ登校してみると、何人かのクラスメイトに声を掛けられた。
どうも私は一週間も学校を休んでいたらしい。
そんな記憶、私にはまったくないのに。
不思議だわ。
思い出そうとしてもまったく思い出せない。
しょうがない、帰ってみたらマレに聞いてみよう。
お昼、いつものようにルーフスと食べる。
「今日は一緒に帰らないか?」
なぜかルーフスが誘ってきた。
「それってデート?」
つい嬉しくて目を輝かせてしまう。
「そういうのもデートって言うのか? 一緒に帰るだけで。それなら帰りに美味しいスイーツでも買って帰ろうか? たまにはマレにお土産を買って行ってあげたいし」
「なんか気持ち悪い。ルーフスがそんなに優しいと」
「失礼なやつだな」
「うふふ、冗談だって。ルーフスは優しいよ」
最近のルーフスは優しい。
昔も優しくはなかったわけではないが、それでも眼差しは悪魔らしく冷たかった。
それが最近は眼差しでさえも優しくなったのだ。
どうしたのだろう?
悪魔だけど、心境の変化かしら?
「そう言えば、また母親の病院の面談の日じゃないか?」
「うん」
「そろそろ聞いてもいいか? どうして母親は入院をしている?」
この言葉で、ずっと疑問になりながらも聞かないでいてくれていた事を知った。
ルーフスはルーフスなりに、私を見守ってくれていたのだ。
今なら冷静に話せるかも。
私はルーフスにママとパパとの事を話す事にした。
今年の4月。
私は急に倒れた。
それは検査の結果、持病の心臓病が悪化したらしい。
生まれつき心臓が悪く一切の運動を止められている私は、生まれた瞬間に手術を何度もしなければいけない状態にあった。
そしてその時に医者に告げられたのは、20歳までしか生きられない死の宣告。
それでも騙し騙しなんとか高校生にまではなる事ができた。
あと少しで入学式という時に、私は倒れて死の淵を彷徨ってしまう。
なんとか手術で一命をとりとめるものの、私は病院での生活を余儀なくされたのだ。
ひと月の昏睡状態。
約半年近く病院で生活をし、やっと退院できるかもという日にママは倒れた。
娘が死んでしまうかもというギリギリの精神状態の中、やっと落ち着いた時に糸が切れてしまったのではないかと言うのが医者の見方だ。
それ以来ママは精神を病んでしまい、私という存在はママの中で小さいままの少女になっている。
そんなママや私を見ているのが辛いのか、パパは一切帰ってこなくなった。
ママの病院へはちょこちょこ顔を出しているようだけど、私にはまったく会おうとはしてくれない。
これがママが入院している実情。
ルーフスは横で黙って静かに聞いてくれている。
「たいした話ではないかもしれないけれど、ずっと淋しかった1人で」
その言葉を言ってしまった瞬間、関を切ったようにボロボロと涙が溢れ出す。
そうだ。
私ずっと淋しかったんだ。
1人ぼっちで。
あの頃は毎晩泣いていた。
それでも誰にも声は届かない。
誰も助けてくれない。
私なんか誰も見てくれない。
学校に行っても、家に帰っても1人でずっと耐えていた。
泣き叫んでも誰も助けてくれなかったから。
「今は私がいる」
そっと肩を抱きしめ、ルーフスが寄り添ってくれる。
私は初めてその胸の中で号泣した。
今は側にいてくれる人がいる。
寄り添って守ってくれる人がいる。
ああ。
きっと私彼氏が欲しかったんじゃなくて、守ってもらいたかっただけなのだ。
「お前が飽きるくらい、ずって側にいてやるから」
そっか。
私まだ子供だもん。
頼ったっていいんだよね。
ありがとう、ルーフス。
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