黒光りする長くてごんぶとの奴が欲しい

いなばー

黒光りする長くてごんぶとの奴が欲しい

 とある会社の一室。

 男女二人がキーボードを叩いている。

 そのうちの女が口を開いた。


「三宅、黒光りする長くてごんぶとの奴が欲しい」

「何言ってんの、加藤?」

「だって、こんなに夜遅いんだよ? 欲しくなるのも仕方ないって」

「でも……加藤ってば、俺のこと怒ってたよな? デートドタキャンして元カノと会ったから」

「そんなの今はどうでもいいよ。もう恋しくって恋しくって……」

「まぁ……加藤がそう言うなら……」

「口いっぱいに頬張りたいんだよねぇ」

「え? そのプレイ、加藤は嫌がってたよな?」

「前においしく頂いたのが、忘れられないんだよ」

「前か……あれは確か去年の……」

「今月の三日だね」

「……あれ? その日、俺たち会ってないよな?」

「舞ちゃん家で二人して盛り上がったんだよね」

「舞ちゃん? 設計課の河内こうち舞? あの子、女だよね?」

「道具をね、すっごい揃えてんの。初めて見るようなのばっかり」

「ええっ! オトナのオモチャ? それで盛り上がったの?」

「私、自分でするのは初めてだったんだ。ヒイヒイ言いながら頑張ったよ。舞ちゃんは慣れたものだったけど」

「いろんなプレイしたんだ? 見たかったな……」

「三宅と喧嘩してなかったら、三人で盛り上がれたのにね」

「えっ! 三人はありなの? 加藤ってば、そんな寛大な女だっけ?」

「ああ……話してたらどんどん欲しくなってきた。この際、萎びたひょろひょろなのでもいいや」

「いや、オモチャには負けるかもだけど、俺のもなかなかのものだぜ?」

「ねぇ、三宅、お願い!」

「お、おうっ!」

「コンビニで巻き寿司買ってきて!」

「……巻き寿司」

「太巻きが理想だけど、サラダ巻きでも可」

「……二月三日は節分。恵方巻きを河内と二人で作って食べた、と」

「え? なんで死んだ魚の目?」

「なんでもないです……じゃあ、買ってきますね、巻き寿司……」


 とぼとぼと男が出ていく。

 それを見送った女が笑う。


「くくく、かわいい奴め」

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