7.里奈の成績
「なんや聡。今日は山本里奈おらんのか?」
翌日、昼休みには俺の教室に来るよう言ってある里奈が今日は来ていないためか、田村が若干にやついた顔で尋ねてきた。
「今日はあいつ、俺と口聞いてくれへん」
「はあ? お前また何かしたとちゃうんか?」
まるで俺に非があるかのような口ぶりのそれは、俺にしてみれば心外だ。
だって俺は何も悪くない。
里奈が勝手に怒っているだけだろう?
「はいはい、何があったんや」
「何があったってわけでもないけど、まぁ強いて言えば――」
俺は夕べ里奈の部屋で起きたことを話した。
田村は盛大に飲んでいたコーラを吹き出した。
「お前、それはあかんで!」
「何があかんねん。幼稚園からずっと一緒におるのに一度も見せへんかった里奈が悪い」
「その理屈でいったら世の中犯罪し放題やぞ」
相変わらず田村はよく分からないことを言って俺を責め立てる。
昔からだが、こいつに里奈との話をすると大抵これだ。
まったく話にならない。
「そもそも何でそんなことになったんや?」
「何でって、それも里奈があかんねん。いつも俺が部活終わるよりも先に帰るし、理由もいまいち納得いかんし、あれは絶対俺に何かを隠しとるに決まっとる」
「そんな程度の話なんかよ……」
田村は呆れた様子で脱力する。やはりこいつに話したところで生産的な何かが返ってくるような気がまったくしない。
やれやれと思ってため息を吐こうとしたとき、田村が「まぁ見当が付くけどな」と言ってきた。
「は? 見当? 何の?」
「だから山本里奈の隠し事的なヤツ」
その瞬間、俺の思考が固まった。
田村が、里奈の、隠し事的なヤツを、知っているだと?
「何でやねん! 何でお前が知ってんねん!」
「ちょっ聡っ! 首絞めんなっ」
俺が知らない里奈の秘密を他のヤツが知っているなど、許せるはずもない。
例えそれが小学校から一緒の田村であってもだ。
俺は田村の首を掴んでぐあんぐあんその頭を揺らした。
「で、何なんや。はよ吐けぇ」
「お前、ほんま山本里奈に関しては容赦ないよな」
「ええからはよ言え」
田村は「はいはい」と言うと、少し身を乗り出して「ところで」とここにそぐわない言葉を繋ぐ。
「お前はこの前の中間試験、何位やったんや?」
「は? 中間? 何でそんな話になるんや。はよ里奈のこと言え」
「ええから何位やったんや」
田村は強引にこの話を進めようとする。
まったく関係のない話をし出した田村に俺は苛立ちを感じつつも、五月下旬にあった中間試験の結果を思い出す。
「……89位やった」
「お、聡にしてはまぁまぁやん。俺は65位やったけどな。じゃあ山本里奈が何位やったか知っとるか?」
言われて俺は言葉に詰まった。
いつもならこんな質問すぐに答えられるのだが、不覚ながらに俺は中間試験の里奈の順位を知らない。
その様子を見て、田村がにやりと笑う。
「あいつ、17位やったぞ」
「じゅう……なな?」
それはこれまでの里奈の成績の中ではかなりいい方なのではないか?
いや、もともと里奈は頭が賢かった。計算も速いし暗記も早い。しかし中学の時は俺と同じく40位前後にいたはずだ。中学の時はせいぜい一学年180人くらいだったから、それでもまぁまぁな成績だったのだが、今は一学年300人以上いる。それで17位とは、かなり成績が上がっている。
「要するにアレやろ。聡に構っとったら勉強時間なくなるから、はよ帰っとるんちゃう?」
田村は自信ありげにそう言ってくる。
だが、それも腑に落ちない。
「でもあいつ、俺が部活帰りに部屋覗くと、いつも雑誌読んどるか寝とるかしかしてへんぞ」
「そんなもん山本里奈の自由やんか。お前とおるとその時間さえもなくなるってことやろ?」
「当然や。里奈の時間は俺のもんなんやし」
「……はぁ、お前こそ話しにならへんわ」
田村がやれやれとため息を吐くが、俺にはどうでもいい。
問題は里奈だ。
里奈の成績がいいのは喜ばしいことだ。流石俺の里奈といったところだ。
だが、そもそも里奈の成績がそこまで良くなったら、俺との差がかなり開いてしまうではないか。それもわざわざ俺との約束を破って勉強する時間を確保していると来ている。
しかもそれを俺に隠すとは。
「あーあと、もう一つ心当たりがあるんやが……あー聞いとらん」
田村が再び何かを言いかけたようだが、俺の思考は完全に里奈の成績のことでいっぱいだった。
六月いっぱい出禁を食らったが関係ない。
里奈に確認しにいこう。
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