3.里奈との放課後
それから俺は陸上部に入り、放課後は部活に勤しんだ。
中学の時も俺は陸上部で、里奈はマネージャーを務めてくれていた。
今回もそうしてくれれば里奈と同じ時間を過ごせたのだが、里奈はちゃんと俺の走る姿を教室から見ていてくれている。
グラウンドから見上げればいつでも里奈と目が合って、俺は練習の度に手を振った。
そしてその度にコーチからの叱りの言葉が飛んできた。
「くぉら、山本! 練習に集中せんかい!」
「うっせ、ハゲェ。俺と里奈の間に入ってくんな」
ついつい心中で思っていることを口にすれば、コーチはすかさず俺の頭を殴ってきた。
体罰だ! と訴えてやろうかと思ったが、この頑固頭のハゲにそんなこと通用しないのは入部一週間で分かったので、我慢することにした。
そうして部活が終わって一緒に帰る。
これが俺たちの当たり前だったし自然の摂理ってヤツだ。
だが、五月になるとそれが狂い始めた。
里奈が俺を待たずに先に帰ることが多くなった。
「里奈、何で今日先に帰ったんや」
部活が終わり、家に帰らずまっすぐ隣の里奈の家に行けば、里奈は普通に自分の部屋で雑誌を読んでいた。
「何でって、お母さんが用事言いつけてきたからしゃーないやん」
「……確かにしゃーないけど、やったらちゃんと俺にも言うてや。部活サボったのに」
「あほぅ、聡に部活サボらせるほどの用事ちゃうわ。それにサボったりなんかしたら、大会出れへんなるで」
そう言われれば、俺も納得せざるを得ない。
何せ、大会で走る俺を里奈の目に焼き付けておかないといけないのだ。これで大会に出られなくなったらそれすらも出来なくなる。
だから俺は里奈の言うとおり、きちんと部活に出るようにした。
しかし、里奈が先に帰るのはその後も続いた。
それはおばさんの用事だったり友達に誘われたりとか。
おばさんの用事はまだ納得がいくが、里奈の時間は俺のものなのに、例えそれが女友達であっても、勝手に里奈の時間を使っているのが腑に落ちなかった。
だが、その度に「大会で走る聡見たいから」なんて言われれば俺も悪い気はしないので、我慢するようにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます