死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~
リザイン
第1話 勝利と毒
「ま、参った……」
目の前にいる騎士が、剣を首元に突きつけられ力なくそう答えた。
相手の剣は弾き飛ばされ、観客席の目前で転がっている。
固唾をのんで見守っていた両国の陣営だったが、やがてハルトが剣を高く掲げると歓声があがった。
相手国の大臣たちは苦虫を噛み潰したかのような表情で悔しがると、ため息をつく。そして、拍手をした。
「……」
ハルトは俯いて力なくうなだれる相手に言葉をかけることをせず、そのままコロシアムを後にした。
そして、王様達から祝言を頂いたあと宴を催すということで、ハルトは王宮内に招待された。
「まさか、本当に勝つとはなぁ」
宴が始まるまでの間、ハルトは別室で過ごすように言われしばらく休んでいたが、未だに相手に勝ったという実感がなかった。
相手はその国最強の剣士である。聞けば、昔から神童と言われ類まれなき才能を発揮していたという。
そんな相手に勝ってしまったハルトは、嬉しいという気持ちよりも驚きという気持ちの方が大きかった。
しかし、それもそのうち嬉しいという気持ちの方が大きくなるのだろう。
「まぁ、とりあえず――」
部屋に置かれていた服に目を止める。
どうやらこれに着替えろとのことらしい。
流石に戦闘用の服のまま宴に出るわけにはいかないとのことで、用意してくれた。
その服は地味ではないものの、かといって華美でもない、オーソドックスな紳士服であった。
「着替えるか…」
そうして着替えようとすると、そこへメイド服を着た筋骨隆々のメイドが廊下を過ぎていった。
服のサイズが明らかに合っていないためか、胸筋が思い切り見えている。
「……」
――な、なんだ今の化物は。あんなメイド初めて見たぞ……。
ハルトは思わず目を丸くした。
しかし、それ見なかったことにして着替えると夜になるまで適当に時間を潰した―――。
夜。
宴の場では、本当ならとてもお目にかかれないような貴族や豪族達でいっぱいだった。
皆、ハルトを見つける度に英雄だなんだのと言って手を握ってくる。
そして、決まって自身の娘をすすめようとしてくるのである。
ハルトはそれに愛想笑いで対応しつつ、テーブルに並べられた豪華な料理に舌鼓をうっていた。
こういう催し物は当然出たことがないので、作法などわからない。
だからできるだけ目立たないようにしていたつもりだったが、やはりあの対決は貴族たちにとっても注目の的だったらしく、皆からの質問攻めに解放されるまで結構な時間を費やした。
「皆、ひっきりなしに自分の娘をすすめようとしてくるから流石に疲れたな」
そう言って、串に刺さった肉を食べていると、1人の男性が俺に近づいてきた。
少し小太りの中年の男だ。タレ目の眉毛からは優しそうな雰囲気が感じられる。
その男はハルトに一礼するとこう言った。
「ハルト様。この度はおめでとうございます。どうですか、一杯」
ハルトは頭をかきながら、
「あーわりぃ。まだ未成年なんだ」
「ああ、そうでしたか。それではこちらのジュースを」
「さんきゅ。ちょうど喉が渇いてたんだ」
そう言って、男からジュースをいただくと一気に飲み干した。
オレンジのさっぱりとした酸味が喉を潤す。
「いい飲みっぷりですね。もう1杯いかがですか?」
「んーそうだな。じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう言って男から再びジュースを貰おうとした時だった。
――あれ……?
なんか、足元がだんだんおぼつかなくなってくるな……。
ハルトはそのまま壁際に背をつかせる。
「ハルト様? どうされましたか?」
男が心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。
「い、いや……なんか急に目眩が―――」
「大丈夫ですか?」
しかし、その口元がにやついたのをハルトは見逃さなかった。
それまではなんともなかったのに、ジュースを飲んですぐに目眩を起こすなんて普通にありえない。
そこで初めて何か毒を仕込まれたことに勘付く。
「お前…一体何を入れた……?」
俺が睨むと男は見下すような冷笑を浮かべて言った。
「さあ、何も入れておりませんよ。至って“普通の”ジュースです」
「嘘つけ……ちっ、から……だが……」
ハルトは間もなくして、立つこともままならなくなり、そのままその場に崩れ落ちる。
その音に気づいた貴族たちが駆け寄ってきた。
「ハ、ハルトさん! どうしましたか!?」
「すぐに医療班を呼んで来い!早く―――!」
近くで誰かが叫んでいるようにも見えるが、ハルトはそれを聞き取ることはできず、そのまま意識が飛んでしまった―――。
最後に見たのは、男の能面のような、ぞっとする冷笑的な薄笑いだった―――。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
ハルト=ストームレイジは幼い頃からとにかく厳しい環境の中で生きてきた。
物心ついた頃には親などいなく、怪しげな施設の中でひたすら地獄のような生活を送っていた。
例えば飲まず食わずで1日中走らされたりだとか、正座で1日を過ごしただとか、3日間起きさせられたりだとか。
当然、途中で死んでいく者も多かった。
施設から逃げ出すこともできたが、見つかれば厳しい制裁が待っている。その上その制裁は連帯責任となり、全員が受けることになるため、安易に逃げることもできない。
そんな修羅のような厳しい生活に耐えたハルト。
しかし次に待っていたのはある研究の実験だった。それが何の研究かは今でもわからない。しかし、その施設は実験に耐えうる体を作れるか振り落とすための施設であり、見事耐え切ったハルトは実験の素体として使用された。
そこでも同じように、施設で生き残った人達が実験の失敗によってどんどんと死んでいった。
ハルトもきっと死ぬものだ……そう思っていたが、彼の実験は成功。
その結果、『未来予知』という自身の身に降りかかる災いを予知できるという能力を得た。最初、どういう能力かよくわからなかったものの、後にとんでもない能力だということにハルトは気づく。
実験が成功したハルトの次に待っていたのは、剣術の訓練だった。
その時のハルトにはどうして剣術の訓練をするのか全くわかっていなかった。しかし、施設での生活に比べたら幾分ましだと言い聞かせ、ひたすら鍛錬に勤しんだのである。
そうして一通りの基礎を身につけたところで次に待っていたのは、相手との実践だった。
いきなり自分よりも一回り大きく、そして屈強な男を相手にさせられ、ハルトは死んだなと思ったものの、未来予知により相手が次にいつどこに攻撃してくるかはおろか、不意打ちですら頭の中に情報が入ってくるため勝つことは容易だった。
ハルトはその事実に最初は戸惑いと驚きを隠せなかった。しかし、人間の適応力というのは恐ろしいもので、1ヶ月経たないうちにその力に慣れ、自信をつけていった。
そうして剣士としてめきめきと力をつけていき、17歳になった頃、突如研究所の所長から、国で最強の剣士を決めるトーナメントがあるから出ろと命令され、出場させられたハルト。
当然ながら彼が強いのは未来予知という能力があるからである。その上、いくら自分に降りかかる災い(攻撃)がわかるからといって、対応できない速度で攻撃されればなすすべがない。
それを最小限なくすために、剣士として厳しい鍛錬をさせられていたのだと、この時ハルトは気づいた。
そしてハルトは見事優勝し、この国最強の騎士になった。
しかし、そこで初めてお会いした国王に、いきなり国同士の存亡をかけて戦って欲しいと頼まれたのだ。
国王からの頼みなど断ることのできないハルトは、それを承諾し1対1の対決をすることになった。
もしハルトが勝てば、相手を無条件降伏させることができるし、逆ハルトが負ければこっちが無条件降伏することになる、まさに国の命運をかけて戦うことになった。
当然頭が痛くなるほど緊張した。
相手国の剣士も当然、その国最強の剣士である。いくら未来予知があるからといってどこまでそれが通じるかはわからない。
ハルトはとにかく無心で戦った。相手国の剣士も、自身の国の未来がかかっているのだ。それはもう修羅の如くハルトを倒しにかかってきた。
勝負の決着は、どちらかの剣をはじき飛ばせば勝ちというものだった。
相手の攻撃は速く、洗練されていたものの、未来予知を使い相手の攻撃をかわしながらハルトは苦しくも勝利した。
この時ばかりは、今までの苦労が報われる―――。
そう喜んだ。
しかし、その結果がこれである。勝利の宴で毒を盛られ、海に捨てられる。
仰向けになりながら、ハルトは海の上にゆらゆらと浮かんでいた。
どうにか頑張ってうつ伏せから脱出したものの、もう1ミリも体が動かない。
――きっと俺はこのまま死ぬんだろう。
たった17年という亮年でその生涯を終えることになるのか。
――はぁ……。
本当は俺だってこんなところで死なずに女の子とイチャイチャして楽しいハッピーライフを送りたい。
毒さえ盛られていなければきっとそれは叶っかもしれない。
どうして未来予知で毒が盛られるということが予測できなかったのかはわからない。
しかしどうせもうすぐ死ぬハルトにとってはもはやそんなことはどうでもよかった。
――さらば俺の人生……。
そうして、ハルトは目を瞑り意識を深底へと沈めた―――――
死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~ リザイン @400784
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