あなたが居てくれて

魚を食べる犬

第1話

○月×日 午後△時 自宅にて


「うぐっ・・・ぐすっ・・・。星宮さんがここまでしてくれるなんて・・・。私、幸せだよ」

「そう・・・。山田にとって今日は記念日だもんね」

 目の前から聞こえる女性の泣き声。その時の私はどう返事をすれば良いか分からなかった。相手の女性が悲しくて泣いているのではなく、嬉しくて泣いていることは分かっている。なぜ、泣いているのか。それはこの日、彼女の誕生日に私は彼女にプレゼントを渡したからである。夜に彼女とお洒落なレストランでディナーを楽しみ、その時、彼女には『家で開けてね♪』と言って、プレゼントの入った袋を渡した。彼女は私の言葉を守って帰宅してプレゼントの中身を確認したのだろう。普通、誰でも誕生日プレゼントを貰えば嬉しいに違いない。しかし、私は誕生日プレゼントに少しの工夫をしてある。それは彼女へのバースデーカード。『お誕生日おめでとう。あなたと会えて嬉しいよ。これからも笑顔でいてね』と彼女への祝福と感謝の言葉を書き留めた。

 山田は昔から友達が少ない人であり、高校三年の自由研究で一緒の班になったことが彼女と仲良くなったきっかけである。それ以来、彼女とはお昼や休日など同じ時間を過ごす女友達になった。当初は仲の良い友人同士であったが、ある事がきっかけで私は彼女への思いが変わった。

 ある日、私は先生に呼び出され、彼女には教室に待ってもらうことにした。先生から仕事を頼まれ、すぐに終わらせて教室に戻った。教室の扉を開けようとした時、教室から怒鳴り声が聞こえてきた。私は恐る恐る扉に耳を澄ました。そこからは××以外の女性の声が聞こえた。

「山田のせいで星宮が困っているよ」

「あなたのせいで星宮がひどい目にあっているよ」

 彼女らの言葉は事実無根である。

「あなた達、嘘を言うのは許せないけど、それ以上に彼女を虐めると承知しないよ!」

 私は彼女らの言葉に耐えられず、勢いよく扉を開けた。そして、私は彼女らに強く叱った。彼女らは私が入ってきたことに加えて、私が怒っていることに驚いていた。

「次、彼女を虐めたら、先生に言うわよ!」

 彼女らにそう言い残し、私は山田の腕を引っ張り、教室を出た。

「ごめんなさい・・・。あなたを一人にしてしまって」

「ううん、私が悪いの・・・。あなたと一緒にいたわたしが悪いの・・・」

「そんなことないよ!あなたは私の心の支えなの。いつも笑顔で私と接してくれる。いつも素直で、気飾らずにいるあなたが大切な存在なの。だから、そんなこと言わないで」

「私・・嬉しいよ。初めてだよ。そんな言葉を言ってくれた人は・・・」

 私は彼女の己を卑下する言葉に耐えられず、泣きながら彼女を抱きしめた。そう、この時すでに私にとって彼女は大切な存在になっていた。彼女は私の言葉に耐えられず泣き出した。

 それ以来、彼女を虐める人はいなくなり、二人揃って平和に高校を卒業した。卒業してから、私は教職員になるために教育大学へ、彼女は自身の夢であるカウンセラーになるために福祉大学へ進学した。お互い、別々の大学に進学した、特に私は遠くの大学に進学したため、今までと比べて会えなくなった。しかし、週末になればお互い予定を調整して土日と同じ時間を過ごすようにしている。

 最初に戻るが、今日は彼女の二二歳の誕生日である。私は晴れて春から教職員として働く。彼女は大学院に進学することになった。私の勤務先は彼女の大学院の近くの高校であるため、春から彼女とアパートで過ごす予定である。今までの感謝の言葉とこれからのことを含めて、彼女に言う。

「山田、今まで一緒にいてくれて、ありがとう。そして、こんな私で良ければ、これからも、いや、末永くよろしくね」

 彼女はすぐにその言葉の意味を理解できなかった。しかし、数分後、彼女はその意味を理解し、満面の笑みで私の問いに答えた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」


おわり

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