エピローグ
告解の丘での出会いから3年の月日が流れた。
秋の昼下がり。枯れ葉舞い散る遊歩道を歩く青年の姿があった。彼は設計の仕事を終えた後、告解の丘の近くを通りがかり、ふと足が向いて、車を停めて町並みを歩いていた。
やがて、商店街の通りに入り、そこで一つの花屋を見つけた。看板には「snow drop」と書かれていた。花屋らしくない響きに、青年の目が留まった。
中に入ると、落ち着いた雰囲気で、一つ一つの花々が大輪をつけて誇らしげにこちらを向いていた。
すると、気配に気付いた店主が奥からやってきた。
「いらっしゃいませ」
その声は聞き覚えがあった。
痩せた体に糊のついたシャツを着込んだ男は、アルヴァンだった。
二人は再会を喜び、笑い合った。
「花屋をやってたんだな」
「ああ、色々考えたんだが、これが一番私の性にあっていてね」
照れくさそうに話すアルヴァンは、とても幸せそうだった。
「確かに、いい花だ」
そして、フリードは適当に選んだ花を何本か買うことにした。
「毎度あり。では、ラッピングなんだが、新入りに頼んでもかまわないだろうか」
「ああ、いいよ」
「ありがとう。おーい、ラッピングを頼むよ!」
大きめの声で言うと、奥の方から女の声がした。
「はーい、かしこまりました」
女は枝切り鋏を手に、小走りでやってきた。女は若く、愛らしい顔立ちをしており、綺麗なクリーム色の長髪を後ろで束ねていた。
彼女は作業台の上に丁寧にラッピングの紙を広げて、花を包み始めた。
彼女のシャツからのぞいた腕は、可憐な顔立ちからは想像できないほど細く、指先も骨が浮いており、小さく震えていた。
震える指先で懸命に包んでいる姿を、アルヴァンが離れた場所からじっと見守っていた。
その優しそうな表情を見たとき、フリードは、そうか、彼女なんだな、と思った。
時間をかけて仕上げた包みは、出来が良いとはいえなかった。
「ごめんなさい。私、なかなか上手に出来なくて」
彼女は申し訳なさそうに俯いていたが、フリードは花束を手にしながら、満足そうな顔で首を振った。
「いや、良い出来だ。ありがとう」
「あ、ありがとうございます!」
彼女は興奮気味に、顔を赤らめながら礼をした。そして、思い出したように二人の顔を見比べた。
「そういえば、お二人はお知り合いなんですか?」
「まあね」
「そうさ。おっちゃんは、俺の恩人なんだ」
アルヴァンが照れたように首を振ったが、彼女はそれに対して目を輝かせた。
「すごいです! 私、アルヴァンみたいになりたいんです。器用で、花への情熱もあって」
「あんた、花は好きかい?」
「はい。実は、つい最近まで何年も眠り続けていたんですけど、その夢の中では、いつも花が咲き乱れていたんです。だから、目が覚めたら絶対に花屋で働こうって決めてたんです」
「そうか」
フリードは頷きながら、ふと思い出したように看板を指さした。
「そういや、snow dropって、なんか花屋の名前っぽくないけど、どういう意味だ?」
「それは、白い花の名前だよ」
「ややこしいなあ、もう」
フリードが肩をすくめた。
それを見ていた2人は顔を見合わせて、笑った。
告解の丘で 手紙少女 @tegamishojo
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