エピローグ
「起きて美咲、朝ご飯が出来たよ」
彼の声で目を覚ました‥
「おはよう‥岬」
「おはよう、昨日は遅くまで採点、大変だったようだね?」
「うん‥ごめんね」
この四月から、わたしと岬は無事に教員採用試験をパスして、岬は公立高校の、わたしは自分の女子大付属の女子高の教員に採用された。
教師ってこんなに忙しい仕事だったんだ‥
今更ながら驚いていた。
でも、自分で選んだ道だから後悔はない‥
その代わり、あまりの忙しさから、二人で会う時間が全く無くなってしまってしまった。
だからわたし達は思い切ってこの六月から一緒に暮らし始めた。
「仕方ないよ、私立は大変だからね、しかも女子校なんて想像できないな」
「本当だね、女子校って色々あって‥わたしは行かなくて良かったよ‥」
ベッドから起き上がって寝室から出るとリビングの椅子に座ってダイニングテーブルに用意された朝食をいつものように食べ始めた。
「岬には感謝してる‥いつもありがとうね」
「何言ってるんだよ‥僕の方こそ美咲には感謝してるよ‥こんなに早く結婚を決めちゃって、美咲のお父さんもお母さんも本当は反対してないのかな‥」
岬がすまなさそうに言った。
「そんなことないよ、お母さんなんか全然反対しなかったよ」
「そうなの?」
「そうだよ、わたしが大学入ってから、お母さに彼氏ぐらい作って紹介しなさいってよく言われたの、わたしは心に決めてる人がいるからその時まで待ってって言ったんだよね‥だから、わたしの結婚は意外と早いかもって思ってたみたいだよ。わたしがお母さんと妹の美優の母校の女子校の教員になって喜んでくれたし、教師を目指した理由も岬だって話してあったからね‥でも、教師がこんなにも大変で二人で過ごす時間が全く無くなるなんて、想像もしてなかったから、もう一緒に暮らすしかないって思ったんだ。だから‥婚約して一緒に暮らし始めたんだよ。岬が傍にいてくれることが、何より大切なんだからね」
そう言ってわたしは岬の手を握りしめた。
左手の薬指には岬がくれたエンゲージリングが光っている。
「今日はせっかくの日曜日だけど‥杉山先生と食事をする約束の日だからね、杉山先生に会うの久しぶりだな」
岬がコーヒーをドリップしながら言った。
「そうだね、わたし達にとって杉山先生は恩師であり、キューピットだって思うんだよね」
「この前、今日の食事の件を杉山先生に連絡した時、とっても喜んでたよ、教え子が二人一遍に教師になって、オマケに結婚して夫婦になるんだからって」
そう言って岬はドリップしたコーヒーをカップに注ぐとわたしにカップを手渡した。
「結婚式にも絶対出席してもらわなくっちゃね!そろそろ結婚式に招待する人も考えないと‥半年なんてあっという間だよ」
わたしは岬に促した。
「そうだね‥これから大変だね、僕ら本当に結婚するんだね」
岬がコーヒーを飲みながらしみじみと言った。
「そうだよ、本当に結婚するんだからね!千鶴と角田君も結婚式に呼ばないと、あの二人はどうなるのかな?千鶴、わたしがもう結婚するよって話したらビックリしてたよ、でもね一番喜んでくれた‥わたしは凄いって!よく三年間も待ってられたねって」
「確かに‥美咲は良く待っていてくれたと思うよ‥」
「あのボールがあったから不安なんて無かったよ、わたしは岬しか考えられなかったんだから!」
「僕も‥いつか必ず美咲に会えると信じてたけど‥美咲が教師を目指してくれたから、意外と早く会うことができたって思うよ」
「そうでしょう、わたし頑張ったんだからね‥岬のために、そして自分のためにね」
もうすぐ澄野美咲から蒼井美咲になるんだ‥彼と一緒の苗字になるんだ‥
彼と一緒なら、これからどんなことも乗り越えていける‥
わたしと岬を結んでくれたあのボールはアクリルケースに入れて棚の上に大切に飾ってある。
これからもわたし達二人を優しく見守ってくれるに違いない。
−END−
卒業のとき 神木 ひとき @kamiki_hitoki
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