第二話 常盤井研究室

 大学の研究室というと、大きな本棚があって教官と学生達の机が並んでいるのをイメージする。多少の違いこそあれ、大体はそんな感じだ。こなれた研究室だと簡易ベッドやちょっとした給湯設備があったりして、お茶を飲んだり弁当を食べたりすることができる。僕が卒業した大学では、そこで毎日米を炊く強者つわものもいたけれど。


 でもこの研究室は違った。まるっきりのカフェだ。僕が知っている大学の研究室的な要素が一パーセントもない。しかも街で見かけるチェーン店の画一的な店構えじゃない。老舗のカフェが備えている重厚なカウンターがあって、本格的なドリップ機器がところ狭しと並んでいる。調理設備までしっかり揃っている。軽食はもちろん、本格的な料理まで作れそうだ。こんな立派な老舗喫茶店がなぜ研究室の中にあるのだろうか? 僕の頭の中ははてなマークで満たされた。


 カウンターの向こうには印象に残る女性が立っている。僕は二十二年間という人生の中で、初めて現実離れした”美人”というものを目の当たりにした。絵画から飛び出して来たようなこんな美人が実在していいのだろうか? 同じ空間にいることが思わず恥ずかしくなるほどだ。


 年の頃は僕の少し上くらいだろう。長い黒髪をポニーテールで纏めている。ぱっちりした大きな茶色い猫目で背は高い。170cmの僕と同じか、それよりも少し高いかもしれない。肌が凄く綺麗だ。色白過ぎて血管が透けて見えそうだ。つんと少し上を向いた小さな鼻、淡い桃色の薄唇。触ればたちまち壊れてしまいそうな繊細な雪結晶のようだ。


 それと……下世話な話だけど正直に告白しておく。彼女は巨乳だった。痩せているにもかかわらず胸が大きい。健全な男子だったら誰だって必ずそこに眼がいく。それがシックなモノトーンのメイド服でパリっとキメているんだ。もう絶句するしかないだろう。


「おはよう、学生君」


 そんな美の結晶が挨拶をしてくれた。ニッコリと微笑むその姿は女神のようだ。今日一日がすべてバラ色に見えてしまう。ラッキーだ。ラッキー過ぎて恐いくらいだ。


 いや待てよ……。よく考えたら、僕は大学の研究室に来たはずだ。でもここは違う。超絶美人のいるカフェだ。それは疑いようがない。僕の予想では、事務的なデザインの机と椅子と本棚、そして偏屈で変わり者の爺さん教官が待っているはずだった。


 そうか、僕は部屋を間違えたんだ。ここは教官用のレストルーム、福利厚生施設に違いない。そうでなければ、こんなところにカフェがあるはずがない。しまった、きっと研究室は一つ隣の扉だったんだ!


「しっ、失礼しました! 部屋を間違えましたっっ!」


 僕は慌ててドアを閉め、思わずもう一度建物の玄関まで戻ってしまった。


「はぁ、焦った。でもあんな美人と話ができて今日は朝からラッキーだ。恥ずかしかったけど、それだけでもよしとしよう」


 気を取り直して再び「常盤井研究室」を探す。念のため警備員にちゃんと研究室の位置を確認した。間違えるはずがない。今度こそ大丈夫だ。


 そして三分後。僕はまたあの黒味がかったドアの前に立っていた。やはりここが常盤井研究室で間違いないようだ。じゃあさっきのカフェは何だったんだろう? 僕の目の錯覚だろうか?


「……疲れてるのかなぁ。でも昨日はきっちり八時間寝たしなぁー」


 もしかしたら、緊張のあまり隣のドアを開けていたとか? 十年一度くらいはそんなこともあるかもしれない。僕は自分をそう納得させた。


 コンコンコン。


 再びノックをする。今度は出方を変えてみた。


「本日から常盤井研究室でお世話になる瑞流です。入ってもよろしいですか?」


 どうだ。これなら大丈夫だろう。部屋を間違えているなら、何か指示があるはずだ。


 しばらく待ったけど何の返事もない―――。


 いや、違う。これは……扉が分厚くてノックがほとんど聞こえていない?!


 さっきは気が付かなかったけれど、この研究室の扉だけが異様に分厚い。他の部屋の扉と色が違うのは、単にデザイン上のこだわりってわけじゃない。これじゃあ軽く指で叩いたくらいじゃ中まで聞こえてないよ。


 といって、拳でガンガン叩くわけにもいかない。時代劇よろしく「たのもー」などと大声で騒ぐわけにもいかない。仕方がない、結局最初と同じパターンで入るしかないのか。つまりICチップ入りの学生証をかざして、ドアを開けることになる。またあの女性と面と向かって話すことになるのか。気恥ずかしい半面、嬉しさもある。だってあんな美人、観るだけで目の保養になるよ。と今は僕の欲望を話している場合じゃない。


 扉に手を掛け、引き戸をひいた。やっぱりさっきと変わらないカフェがあった。目の錯覚じゃなかった。


「やぁ学生君、待っていたよ。君は間違ってなんかいない。ここが常盤井研究室だ。歓迎するよ」


 そして同じく例の美人メイドさんが声を掛けてきた。しかしこの人は何者なんだろうか? カフェだからサーブする係の人なんだろうけど、大学の事務職員? それともアルバイト?


「あ、あのー、でもここ……カフェですよね?」

「うん、そうだ。カフェ兼研究室だ」

「カ、カフェ兼……? 福利厚生施設なんですか? すみません、意味がよくわかりません。教えてください」

 

 メイドさんは美しい姿のまま、嬉しそうに笑顔をたたえている。この人は立ってるだけで絵になる。自分の視線が自然と彼女の顔と胸に集中しているのに気が付き、一気に恥ずかしさが込み上げてきた。いかんいかん。多分今の僕は顔が真っ赤だ。


 しかし、”カフェで研究室”ってどういうことだ?


「細かい事は気にするな。それよりキミは珈琲は好きかな?」

「ええ、飲み物や食べ物の好き嫌いはありませんけど……」

「それはよかった。私はね、珈琲が三度の飯より好きなんだ。さぁ座ってくれ、美味しい珈琲を淹れてやろう」

 

 僕は勢いに負けてカフェのカウンターに座ってしまった。メイドさんは嬉しそうに珈琲のドリップ作業に掛かっていた。でもこのメイドさん、言葉遣いが少し変わってるよな。「座ってくれ」なんてまるで友達みたいだ。

 

 改めてカフェの中を見渡すと、結構な広さである事がわかる。ただ広いだけじゃない。柱も壁も味のある木材で出来ている。温もりのある雰囲気だ。単純にクラシカルなデザインだからってわけじゃない。昔の懐かしい情景を思い出させる造りだ。電球の間接照明もわざとらしい感じがしない。椅子やテーブル、珈琲カップまでも統一感がある。僕も受験勉強ではたくさんの喫茶店にお世話になったけど、ここまで気持ちの安らぐ喫茶店は初めてだ。


 カウンター越しにメイドさんの作業姿を眺める。至福の時間だ。だってこんな美人が僕のために朝から珈琲を淹れてくれるっていうんだぜ。どう考えても普通の大学生活じゃあり得ないよ。


 メイドさんの珈琲を淹れる手際はかなりのものだった。毎日飲み慣れているのだろう。珈琲が三度の飯より好きなのは本当みたいだ。


 僕には珈琲の味なんて正直よくわからない。キリマンジャロの酸味がいいとか、ハワイのコナの薫りがどうとか、やっぱりブルーマウンテンの香ばしさがいいとか……そんな蘊蓄うんちくを垂れられても、大した相槌あいづちもできない。


 だけど指導教官はどこにいるのだろう? 研究室内にこんな本格的なカフェを造るなんて、よっぽど珈琲好きな先生なんだろうな。あるいは研究対象が珈琲とか? 確かに珈琲が体や精神に及ぼす効果は、最近注目され始めている。昔は健康を害する飲み物の代表格として扱われていたけれど、今は反対に健康増進の飲み物として推奨されているほどだ。珈琲も研究対象としては面白いのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、友達口調の美人メイドさんが珈琲を運んできてくれた。カウンターにカシャンとぶっきらぼうに置かれたそのカップからは、格調高い香りが立ち昇る。違いがわからない僕でも、普通の珈琲とは一線を画す香りだとわかる。今までに嗅いだことのない官能的な香りだ。


「さぁ、朝の一杯を飲み給え」

「は、はい。ありがとうございます!」


 メイドさんの偉そうな言葉遣いにちょっと面くらいながらも、僕は良い香りのするカップを掴み、一口含んでみた。……旨い。まろやかでそれでいてコクがある。何よりも濃いのに凄く飲みやすい。珈琲の苦味や雑味がまるで感じられない。かといって物足りないわけじゃない。しっかりと珈琲の力強さが残っている。絶妙なバランスだ。普通に街の店で出しても通用する。いや、これなら相当な値段でも毎日飲みたくなる。


「味はどうだい?」


 ニッコリと満面の笑みで、メイドさんが言葉を投げかけてきた。


「とても美味しいです。こんな珈琲、初めて飲みました」


 よく見れば、メイドさんは僕の前に頬杖を突いて、珈琲をすすっている。お行儀は良くないな。まるで不良メイドだ。だけどそのざっくばらんな態度に僕は少し安心していた。美人メイドさんに厳格なテーブルマナーなんて求められたら、緊張して喉も通らないよ。


「あのー、質問してもいいですか?」

「何だい?」

「この研究室の先生は、もしかして珈琲の研究をしているんでしょうか?」

「いいや。純粋な趣味だよ、このカフェは」


 何とまぁ、趣味だけでこのカフェを造ってしまったのか。とんでもないな。巨額の税金がこんな趣味に使われて大丈夫なのだろうか。


「……趣味、ですか。この大学の先生は随分と自由なんですね」

「この大学最大の特色だからね。大抵の事は許されるさ。その分、結果を求められるがね。それにこのカフェは自費だ」


 僕の期待した通りの大学だ。自由が得られる代わりに結果が求められる。いいね、そうじゃなくちゃ。


 それにしても先生の自費なのか。随分とリッチな先生だな。大学教官の給料は巷のイメージほど高いものではないと聞いたことがある。東京の大学で師事していた先生も「出版やテレビ出演なんかで小遣い稼ぎをしないとやってられない」とよくぼやいていた。


 この研究室の常盤井先生はよっぽどの”お坊ちゃん”なのだろう。


「ところで常盤井先生は今、ご不在なんですか? お姿が見えないようですが……」

「何をいっている。君の目の前にいるのがこの研究室の教官だよ」

「はぁ?! ……目の前には、貴女、つまりメイドさんしかいませんけど」


 美人メイドさんの不可解な返答を聞きながら、ズズっと僕は珈琲を啜(すす)った。


「だから私がこの研究室の教官、常盤井ときわい 景織子きょおこだ。よろしくな、瑞流君」


 ――― ゲッホゲホ。 思わず僕は口に含んだ珈琲を、気管の方へ流し込みそうになって咳込んだ。


 なんてこった。僕は最初から今までずっと指導教官と話してたのか!?


「で、でも、どうして先生がメイドの格好なんかしてるんですか?」


 美人メイドさん、いや常盤井先生は腰に手を当てて立ち上がり、誇らしげに言い放った。


「面白いからだ。巷ではメイドの格好が流行っていると聞いたからな。ウケると思ったんだが……」


 チラリと常盤井先生が僕の方へ流し目を使ってきた。たまらない仕草と表情だ。僕の鼓動は緊張とは別の何かで速くなっている。


「え、あ、いいと思いますよ、素敵です」


 咄嗟とっさに口を突いて出てしまった。巷のうわさって……常盤井先生はたぶんメイド喫茶やコスプレのことをいっているのだろう。


「そうだろーー! 学生君にそういって貰えてよかったよ。この服の仕立てに二週間も掛かったんだぞ。苦労した甲斐があった」


 そう言って先生は、カウンター越しに身を乗り出して僕の両手を握ると嬉しそうにブンブンと上下に振った。


 ……あ、ヤバい。


 先生、その大きなおっぱいがカウンターに鎮座しております。僕の目がそこへ自然に引き寄せらそうになった時、研究室のドアがノックされた。おそらくこの研究室の二人目の学生だろう。黒く分厚い引き戸の向こうには、緊張した顔があるに違いない。

 

 しかし、ガラリと開いた戸の向こうにはメガネっ子の委員長風の女子が太々しい顔で立っていた。そう、学生部の受付で僕に手痛い一発を喰らわせたあの子だ。彼女も常盤井研究室の学生だったのか。


「ふん、この大学でも最高レベルの研究室って聞いたけど……」


 彼女は僕の態度とは対照的だった。カフェの佇まいには驚くこともなく、ゆっくりと辺りを見回し、最後に僕の顔を見て豪快に舌打ちした。


「チッ……大したことなさそうね」


 おいおい、その”大したことない”ってのは明らかに僕に掛かっている言葉に聞こえるぞ。折角こんな美人教官で天にも昇る思いだったのに、同級生がこれじゃあ一気に地獄へ落された気分だ。


「君は、岩倉……岩倉 有紀だったね?」

「ええ、そうよ。貴女が指導教官なの?」

「そうだ。ようこそ常盤井研究室へ。歓迎するよ」

「ふん、あたしは慣れ合うつもりはないわ。自分の研究ができればそれでいい」


 さすがだ。この岩倉さん、指導教官に対しても不遜ふそんな態度を取るのか。相当肝が据わった人だ。自分のキャリアと研究に自信もあるんだろうな。接する相手によって、コロコロと態度や考え方を変えるような人間よりはよっぽど信用できる。友人として付き合うのは骨が折れるかもしれないけど。


「なかなか面白い子だな。まぁいい、あと一人来るから、それまで珈琲でも飲んで待っていてくれ」


 常盤井先生もさすがに大人だ。はねっ返りのじゃじゃ馬のあしらい方をわかっている。僕も見習うところがある。


 岩倉さんはカウンターの一番端に座り、先生が出した珈琲を啜っては、周囲をきょろきょろを見回していた。平静を装ってはいたけれど、彼女なりにこのカフェには驚いていたみたいだ。それを表に出さずに我慢するなんて、ちょっとカワイイところもあるんだな。僕には彼女の態度が少し微笑ましく見えた。


 そんな僕の態度に気が付いたのか、岩倉さんがチラリとこちらを見た。思い切り僕と目が合い、お互い慌てて眼を逸らす。もう一度彼女の方を見ると、顔を下に向けて真っ赤にしている。うん? もしかして怒らせちゃったかな。


「あ、あんた、名前は?」


 真っ赤な顔の岩倉さんが、突然たずねてきた。


「瑞流、ずいりゅう まさひこ」

「ふーん、珍しい名字ね」

「まぁね。名前の方はよくあるけどね」

「私は岩倉 有紀。その……さっきは悪かったわね」


 驚いたことに彼女の口から謝罪の言葉が飛び出してきた。


「うん、もう気にしてないよ」

「だからって馴れ馴れしく話しかけないでよね。あたしは人間関係ほど研究に無駄なものはないと思ってるんだから」

「アハハ、で、でもほら、折角の学生生活なんだし、どうせやるなら楽しくやった方がいいんじゃない?」


 そう僕が取り繕うように月並みな台詞を出すと、岩倉さんの目がすっと細くなった。


「この大学はお遊びサークルとは違うのよ! 学生の本分は勉学よ。それにこの大学では結果を出さなきゃ生きていけないの! あんたみたいなお遊び半分の人間と一緒にされちゃ堪らないわ」


 さすがにここまで言われたら、引き下がる訳にはいかない。僕だってそれなりの覚悟を持ってこの大学に入ったんだ。遊びに来たわけじゃない。


「僕がお遊びサークル学生だって? どんなに優等生か知らないけど、ちょっと言い過ぎじゃないか?!」

「うっさいわね! あたしは雑魚ざこを相手にしている暇はないの」

「ざ、雑魚ざこだって? 人を馬鹿にするのもいい加減にしろよな!」


 ついさっき出会った人間にここまで言われる筋合いはない。僕の心にも久々にイライラ感が満ちてきた。僕は思わず岩倉さんの腕を強く掴んでいた。その拍子に彼女の着ていたシャツがずれ、手首が露わになった。その手首を見た瞬間、僕の苛立った心は一気に萎んでしまった。


 彼女の手首には、痛々しいリストカットの跡が無数に着いていたからだ。”包丁や剃刀で誤って傷つけた”なんて誤魔化しは効かない。そんな数の傷痕だ。


「……な、何よ」


 動きを止めてじっと手首に見入ってしまった僕に岩倉さんが、気まずそうに話しかけてきた。


「あの、ゴメン」

「……別に。こんなの珍しくも何ともないでしょ。フン」


 慌てて袖を戻す岩倉さん。強気な言葉とは裏腹に、その手が震えていた事を僕は見逃さなかった。彼女の強気と勝気は、きっと自分の弱い心を守るための唯一の手段なのかもしれない。そう思うと痛烈な言葉も気にならなくなっていた。


 しばらくすると、またドアをノックする音が響いてきた。もう一人の学生だろうか?


 気まずくなった僕と岩倉さんの雰囲気。それを打ち払う救いのノックだ。美人教官の常盤井先生は、何事もないように珈琲を淹れる準備をしている。それにしても優雅だ。先生の動き一つ見ているだけで、嫌な事も忘れられる。


 だけどこの時、僕はミステリアスな美人先生の事を何も知らなかった。彼女の事を深く知るには、もう少し時間が必要だった。


 ガラリと重々しい引き戸が開くと、小柄で可愛らしい女性が立っていた。緩やかにカーブした茶色い髪。ぱっちりした二重ふたえ。スベスベの肌。整った子顔。小動物系の愛されキャラだ。しかしこの子、どこかで見たような?


「あれぇ? まさひこ君だよね」

「あ、あ、そうだけど……」

「忘れちゃったかな~、ほら私だよ、わ・た・し。小学生の時同じクラスだった玉川みな実だよ」

「えっ! あのみな実かっ?」

「懐かしいー。まさかまさひこ君と同じ研究室になるなんて! 嬉しいっ」


 そう言って彼女は俺の腕に飛び付いて来た。


 何を隠そう、この”玉川みな実”は僕の幼馴染であり、小学生時代の同級生だ。学校は一学年に九クラスもあったというのに、なぜかコイツとは丸々六年間一緒のクラスだった。とはいえ、幼い女子と男子。照れもあってなかなか話すのは難しい。そういう僕もかなりシャイな方だったので、女子と話すのは苦手だった。だから僕が女子と一緒に遊ぶことはほとんどなかった。が、コイツだけは例外だ。恥ずかしがる僕を尻目に、どんどん男子の中に入ってくる珍しい女子だった。おてんばという一言では片づけられない。とにかく積極的な女子だった。


「何だ、君らは知り合いか?」


 クールで滑らかな声がカウンターの向こうから聞こえてきた。声だけでも美しさがわかる。美声も常盤井先生の魅力の一つになりそうだ。


「はい。わたし達、小学生時代ずっと一緒のクラスだったんです!」

「そうか、それはよかった。感動の再会だな」

「……ところでメイドさん、常盤井先生はどちらにいらっしゃるかわかりますか?」


 みな実は突然話してきたメイドさんを、指導教官とは知らずに僕と同じ質問を口にしていた。


 ニヤリと不敵に笑う美人メイド。そうかこの人、この瞬間を楽しんでいるんだな。僕はまんまと罠に嵌まったわけか。


「フン、そのメイドが常盤井先生よ」


 岩倉さんが、先生のお楽しみ時間をばっさり斬り捨てた。さすがだ。


「うっそ~~! 本当に!?」

 

 それでも驚くリアクションをするみな実。まぁね、先生本人の口から聞かなくても驚かない方がおかしい。研究室がカフェで先生がメイドの格好をしているなんてあり得ないからね、普通は。

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新帝國大学の美人教官が出不精な理由(わけ) 文乃 優 @YuuFumino

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