人見知りとお寿司
TOKA
第1話
今よりちょっと前の話。寿司が回転するなんて知らなかった頃の話。
「あの……海老、1皿ください……」
「海老1皿ね、あいよっ」
「あ、ありがとっ、ございます……」
人見知りが激しくて、初対面の人と話すなんてもってのほか。
無口な父と陽気な母、そしてやんちゃな5歳の妹と3歳の弟。妹たちがあれが欲しい、これが欲しいと自分の意見を言うのを横目に見ながら「あぁ、話さなくていいんだ」と殻に閉じこもる私。小学生になり、「お姉ちゃんでしょ」と言われながら日に日に無口になっていく。
そんな私の人見知りは怖い顔のおじさんによって克服の兆しが見えた。
その日は月に1度の外食の日。妹のリクエストでお寿司を食べることになった。寿司と聞くと憂鬱な気分になる。怖いおじさんに、大きな声で注文をしなければならないのだ。いつもは妹に頼んで一緒に注文してもらうのだが、この日は違った。なんと、板前さんから話しかけてきたのだ。
「嬢ちゃん、何が食べたい?」
大きな顔のおじさんに見つめられ、既に涙ぐむ私。
「え、えび……」
「え?あぁ、海老ね。あいよーう」
あぁー怖かった!!!ちらりと母の顔を見ると、ニヤニヤしながら、
「お姉ちゃんだって、ちゃんと言えるじゃない」
と、一言。後から聞けば板前のおじさんも、怖い顔しているわけではなく私が怖がらないように無理矢理作った笑顔を向けていたのだった。
「なんだ、怖くない」
すっと気持ちが落ち着いて、目の前に出てきた大好物の海老のお寿司がとてもキラキラ輝いて見えた。
「おじさん、海老もう1枚ください」
「あいよーう」
私の人見知りが少しだけ直った、お寿司屋さんの話。
人見知りとお寿司 TOKA @mizupooooon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
あやめ/TOKA
★5 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
精神障がい者の日記/羽弦トリス
★57 エッセイ・ノンフィクション 連載中 552話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます