夢浮橋 その二十五

 山里にふさわしい風流なご馳走などをしたが、小君の子供っぽい心にはなんとなく落ち着かなくて、



「わざわざお使いに寄越されましたしるしとして、何と殿にお返事申し上げたらいいのでしょう。ただ一言だけでもおっしゃってください」



 などと言うと、尼君は、



「本当にごもっともなことで」



 などと頷き、これこれとそのまま姫君に伝えるが、何も返事がないので仕方なく、



「ただ、こういうふうに姫君ははっきりしない御容態だとお伝えいただくほかはございませんでしょう。雲のはるかに隔てているというほど遠い道のりではありませんようですから、山風が吹きましても改めてまたきっとお立ち寄りください」



 と言う。小君は用もないのに日の暮れるまで座っているのもおかしなことなので帰ろうとするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る