夢浮橋 その十九

「ただ一人いらっしゃった母君がどうか私を幸福にしたいと一方ならず思ってくれていたようでしたが、その母君は今も生きておいでかしらとそれだけが心から離れず悲しい折々もございます。今日見ればこの少年の顔はこの子のまだ小さかった頃見たような気もするのも実にたまらないほど懐かしく思いますものの、今更もうこうした肉親からも私がこの世に生きているとは知られずに終わりたいと思います。


 もし母君がこの世にまだいらっしゃるなら、母君一人にだけはお会いしたく思います。この僧都のおっしゃる人などには決して知っていただきたくはないと思います。何とか具合よく誤魔化して、ぜひとも人違いであったとまげてお返事をなさって私をかくまってくださいまし」



 と言うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る