夢浮橋 その十八

 この少年がいかにも可愛らしくて姫君にどこか似ているような気もするので、尼君は、



「ご姉弟なのでしょう。あなたにお話ししたいこともおありなのでしょう。お客さまを中にお入れいたしましょう」



 と言う。浮舟の君は、



「どうしてそんなことが。今では私がこの世に生きている者とも思っていないだろうに。私はもう変な尼姿に面変わりしているのだもの。不用意に会うのは気がひける」



 と思うので、しばらくためらってから、



「いかにも私が隠し事をしているとお思いになっていらっしゃるらしいのが辛くて、何も話せないでいたのです。宇治でどんなにか浅ましい惨めな姿をしていただろうと思われる、あのときの私のありさまを、またとない不思議なこととご覧になられたでしょうが、あんなことで正気もなくなり、魂などというようなものもそれ以前とは違うものになったのでしょうか、どうしてもどうしても過ぎ去った昔のことを自分ながら一向に思い出せません。紀伊の守とかいう人が世間話をしていたようでしたが、その中に以前住んでいたあたりのことだろうかとかすかに思い出されることがあるような気持ちがしました。そののち、あれやこれやとつづけて思い出そうとしますが、一向にはっきりしたことは思い出せません」

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