夢浮橋 その十八
この少年がいかにも可愛らしくて姫君にどこか似ているような気もするので、尼君は、
「ご姉弟なのでしょう。あなたにお話ししたいこともおありなのでしょう。お客さまを中にお入れいたしましょう」
と言う。浮舟の君は、
「どうしてそんなことが。今では私がこの世に生きている者とも思っていないだろうに。私はもう変な尼姿に面変わりしているのだもの。不用意に会うのは気がひける」
と思うので、しばらくためらってから、
「いかにも私が隠し事をしているとお思いになっていらっしゃるらしいのが辛くて、何も話せないでいたのです。宇治でどんなにか浅ましい惨めな姿をしていただろうと思われる、あのときの私のありさまを、またとない不思議なこととご覧になられたでしょうが、あんなことで正気もなくなり、魂などというようなものもそれ以前とは違うものになったのでしょうか、どうしてもどうしても過ぎ去った昔のことを自分ながら一向に思い出せません。紀伊の守とかいう人が世間話をしていたようでしたが、その中に以前住んでいたあたりのことだろうかとかすかに思い出されることがあるような気持ちがしました。そののち、あれやこれやとつづけて思い出そうとしますが、一向にはっきりしたことは思い出せません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます