総角 その一〇三

 昔、唐土にあった亡き人の魂を呼び戻すという反魂香を何とかして手に入れたいものと思う。


 すっかり夜も更けて暗くなった頃、匂宮から使いが来た。悲しみに沈み込んでいた折なので、少しは心も慰められたことだろう。


 中の君は手紙をすぐに見ようともしない。大君が、



「やはり素直なお心で穏やかなお返事を差し上げなさい。このまま私は亡くなりでもしたらこのお方よりもっと冷淡な扱いをする人が出てくるかもしれないと心配でなりません。時たまにしろ匂宮が思い出してお通いくださるならそんな不埒な料簡を持つものはまさかいないだろうと思いますので、匂宮をひどいなさり方と恨みながらもやはりおすがりしているのです」



 と話すので、



「私を置き去りにしようなんてあまりにもひどいお話ですわ」



 と中の君はますます顔を襟元に埋めてしまうのだった。

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