総角 その一〇一

 中の君も〈うたた寝は物思ふ時のわざ〉と歌ううたた寝をしている。その姿がとても可愛らしく、腕を枕に寝ている枕元に長い黒髪が豊かにあふれている様子など、世にまたとなく愛らしく美しいのを大君は見て、父宮の遺戒も返す返す思い出してたまらなく悲しいのだった。



「父宮は罪深い人の行くという地獄にはよもや堕ちてはいらっしゃらないだろう。死者の巡る六道のどこでも構わないからどうか父宮のおいでになるところへ私を迎えてくださいまし。こんなにまで辛い思いに苦しんでいる私たち姉妹を打ち捨てられたまま夢にさえお見えくださらないのはあんまりです」



 と思い続けている。


 夕暮の空模様は身に染むようにもの淋しく時雨れてきて、木立の下の落ち葉を吹き払う風の音もたとえようもなく侘しくて、過ぎ去った日々の悲しい思い出や心細いこれから先の日々をあれこれ思い煩いながら病気の身で几帳の陰に添い臥している大君は限りなく気品にあふれている。白い着物で髪は病気のため長い間櫛を入れてないままだが、一筋のもつれもなく、枕元に流れるようになびいていて、長らく病気の日々に少し青ざめて面やつれているのもいつもより清楚でみずみずしい感じが勝り、もの悲しそうに外を眺めている愁いをたたえた目元や額のあたりの美しさなども心ある人に見せたいようだった。

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