総角 その九十五

 匂宮を待ちに待っている宇治では随分長く訪ねていない気がして、やはりこんなことだったのかと心細く嘆き沈んでいるところへ薫の君が訪ねてきた。大君の病気が悪いと聞き、お見舞いに来たのだった。それほどひどく我慢できないほどの重態でもなかったのだが、病気を口実に大君は会おうともしない。



「ご病気というのでとてもびっくりして遠路はるばるお訪ねしましたのに、ぜひ大君の御病床のお側まで近寄らせてください」



 としきりに心配するので、大君がくつろいで休んでいる居間の御簾の前に入れる。


 大君はこんな見苦しいところまでお通ししてととても迷惑がっていやがっていたが、そう素っ気なくはせず、頭を持ち上げて返事などは言う。


 薫の君は先日の紅葉狩りのときに匂宮も不本意ながら立ち寄れなかった事情などを説明して、



「気長に落ち着いてお考えなさい。苛々なさってお恨みになったりなさいませんように」



 などと諭すのだった。

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