総角 その九十三

 数々の美しい女絵で恋する男の住まいや山荘の風雅な暮らしぶりなどがいろいろあり、それぞれに恋する男女のありさまを描いてある。匂宮はそれを見てもわが身につまされることが多く、目につくので少しおねだりして宇治の姫君に差し上げようと思う。


 在五中将在原業平の物語を描いたものに、業平が妹に琴を教えている図柄があった。〈うら若み寝よげに見ゆる若草を人の結ばむことをしぞ思ふ〉と妹君への懸想めいた歌がその絵に書き込んであるのを見て匂宮はどう思ったのか、少し几帳の前に近寄り、



「近衛の昔の人も兄妹の仲ではいつも隔てなくしているのが普通でした。それなのにこちらではよそよそしく扱われるのはどういうわけでしょう」



 と小声で言うと、女一の宮はどんな絵なのかと見たそうなので、巻き寄せて几帳の下から差し入れると、うつむいてそれを見る女宮の髪が波打って横になびき、その間から横顔だけがほんのチラリと見えるのがいつまでも見飽きないほど美しく、せめて血の遠い人なら捨てておかないのにと耐え切れない気持ちで、



 若草のね見むものとは思はねど

 むすぼほれたるここちこそすれ



 と言うのだった。

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