総角 その九十二

 時雨がしとしとと降る物静かなしっとりしたある日、匂宮は姉君の女一の宮の部屋にいた。


 たまたま側には女房もそう多くなく、女一の宮は静かに物語絵などを見ているところだった。几帳だけを隔てて二人は話す。この上もなく上品で気高い感じながらたおやかで可愛らしい姉君の様子をこれまでずっと無上のものと思っている匂宮は、



「この女一の宮の容姿に肩を並べる人がまたとあろうか。冷泉院の女一の宮だけは父の寵愛の深いことや内々のお暮らしぶりも奥ゆかしくていらっしゃると評判だけれど、あの宇治の山里の姫君は可愛らしく気高い点では冷泉院の姫君にひけをおとりにならないだろう」



 と真っ先に中の君を思い出すにつけていっそう恋しさがつのりたまらない。ついその気持ちを紛らわそうと女一の宮の前にとり散らされている託宣と絵を取り上げて見るのだった。

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