総角 その六十三

 次第に日が暮れてしまってすっかり夜も更け切ったので、匂宮は思い余って馬に乗って出かけた。



「私は今夜はかえってお供するのは控えましょう。それよりのちの始末をお引き受けします」



 と薫の君は宮中に残った。


 薫の君が中宮のところに行くと、



「匂宮はお出かけになったのでしょう。呆れたこと、本当に困ったお方ですね。そんな有様を人は何と思うでしょう。帝が匂宮の噂をお聞きになりまして私がお諫めしないのが不行き届きだとお叱りを受けるのがつらくて」



 と言う。明石の中宮にはこうして立派に成人した御子たちが大勢いるのに、以前にもましてますます若く魅力的でいる。薫の君は、



「女一の宮も中宮に似てきっとこのようにお美しいに違いない。何かの機会にこうした物越しにでもいいから近くでせめてお声だけでもお伺いしたいものだ」



 と切なく思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る