総角 その六十四

「好色な男が不心得な恋心を起こすのもこうした間柄でかといってもあまり遠々しいというほどでもなく、思う気持ちが十分伝えられないといった場合なのだろう。自分のような偏屈な性分のものはまたとあろうか。そんな自分さえやはりいったん心惹かれた人のことはとても思いきれるものではない」



 などと考え続けている。


 明石の中宮に仕える女房たちはすべて容姿や心映えがそろってそれぞれに見事な中にも見るからに上品で群を抜いて美しく目につくものもいるが、薫の君はゆめゆめ女に心は乱すまいと心でひどく生真面目に振舞っている。


 中にはわざと気を引きような素振りを見せる女房もいる。いったいにこちらは気後れするほど奥ゆかしく慎み深く暮らしているところなので、女房たちも表面だけはしとやかに振舞っているものの、人の心はさまざまな世の中なので、色気たっぷりの下心がちらちら見え透いてしまうものもいる。


 薫の君は人さまざまで面白くもいとおしくも感じながらこんな日頃の立ち居につけてもただこの世の無常をあれやこれやと考えてしまうのだった。

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