総角 その六十二

 薫の君はこの際しっかり匂宮の本心を見届けておこうと思い、



「久しぶりでこうして参内なさいましたのに今夜も宿直もなさらないで急いで退出なさったりしては中宮はますます怪しからぬこととお怒りになるでしょう。台盤所のほうで小耳に挟みましたが密かにあなたを宇治に案内した罪で私も筋違いなお叱りをいただくだろうかと顔色が青くなりましたよ」



 と言う。匂宮は、



「いやまったく、聞くに堪えないような邪推をされてひどいお小言をおっしゃるのだ。大方は誰かが告げ口を下のだろう。世間で咎められるような心得違いをこの私がどうしてしでかすものか。窮屈な身分などかえってないほうがましというものだ」



 とつくづく自分の高貴な身分を忌々しく思っている様子だ。そんなに匂宮に同情して薫の君は、



「お出かけになろうがなるまいがどっちみち騒がれるのは同じことでしょう。今夜の中宮のお叱りは私がこの身無きものにしようともお引き受けましょう。木幡の山越えには馬をお使いないまし。そのほうが世間の目をくらまし易いでしょう」



 と勧めるのだった。

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