総角 その六十一

 匂宮はその夜参内したらすぐには退出できそうにない雰囲気なので、人知れずやきもきして心も上の空で焦っている。


 明石の中宮が、



「いまだにこんなふうに独身でいらっしゃって世間に浮気な人という評判ばかり高くなっていくのは本当に困ったことです。何事にも自分の好みを押し通そうとなさるのはおよしなさい。帝もご心配のようでそのことを仰せでした」



 と中宮はとなく二条の邸に暮しがちなのを意見するので、匂宮はとても困った。宿直の部屋に下がって宇治に手紙を書き、使いを出したあともひどく物思いに沈んでいる。


 そこへ薫の君が来た。


 匂宮は薫の君を宇治の人々の味方とばかり思っているので、いつもよりうれしくて、



「どうしよう。こんなにすっかり暗くなってしまって気が気じゃない」



 と心配そうに言うのだった。

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