総角 その六十

 その単衣の着物の袖に古風な趣向だが、



 小夜衣着て馴れきとは言はずとも

 かごとばかりはかけずしもあらじ



 と脅して書いてあった。


 姉妹の二人とも薫の君に姿を見られてしまったことをとても恥じていたので、この返事を何と言おうかと迷っているうちに、使いの何人かは逃げるように姿を隠してしまった。身分の低い従者を引き留めて返事を渡す。



 隔てなき心ばかりは通ふとも

 馴れし袖とはかけじとぞ思ふ



 心が急いて、気もそぞろに焦ったあげくのときなので一向に風情もない歌なのだが、薫の君は待ち焦がれていて見たので、気持ちが素直に詠んでおり、ただもう胸にしみる歌だというようにとるのだった。

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