総角 その五十九

「新婚三日目の夜には三日夜の餅を召し上がるものです」



 と女房たちが教えるので、大君はそれを特別にしなければならない御祝儀なのだと思い、自分の前で作らせるが、わからないことばかりだ。また一方では自分がいっぱし親代わりになって何かと指図しても女房たちにどう思われるだろうと気がひけて顔を染めているのがいかにも可愛らしい美しさだ。これが姉心とでも言うのだろうか、おっとりと上品でいるが、他人に対しては思いやりがあって情け深い人なのだった。


 そこへ薫の君から手紙が届いた。



「昨夜参上しようと思いましたが、いくらお仕えしても認めていただけない恋を情けなくお恨みに存じまして。今夜は雑役の御用もおありかと存じますけれど、先夜の宿直のときの冷たいお扱いに心が傷つき、ひどく体調も悪いものですからためらっております」



 と色気もない檀紙に几帳面に整然と書き、三日夜の祝いに必要な品々を心を込めて贈る。まだ仕立てていない色とりどりの反物を巻いたまま衣装櫃にたくさん納め、女房たちの晴れ着にするようにと老女の弁に与えた。母尼宮の手許にあり合わせたものだけなのでそうたくさんも集められなかったのだろうか、まだ染めていない綾や絹などを下のほうに隠し入れて上に姫君たちの衣装にと思われる二揃いのとても美しく仕立てたものを贈るのだった。

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