総角 その四十六
実はこういう次第でと弁が話すと、大君は、
「ああ、やはりお心を移してくださったのだ」
とうれしくなり、気持ちがほっと落ち着き、中の君のところへ入るなり入り口とは別の廂の間との境の襖にしっかり錠をおろして襖越しに薫の君と対面した。薫の君は、
「一言申し上げたいことがあるのですが、他の人に聞こえるような大声で話すのも具合の悪いことですから、この襖を少し開けてください。これではあまりに気づまりで」
と言うが、
「このままでもよく聞こえます」
と言って襖を開けない。大君は心の中で、
「いよいよこれからは中の君に心を移すのをこのままではすまないと思って何か挨拶するおつもりなのかしら。それなら何の今初めてお会いするわけでもなし、不愛想にならない程度に対応してご機嫌を損なわずに夜も更けないうちに中の君のほうへ引き取っていただこう」
と思い、廂の間の襖の側まで出てくると、薫の君は襖の隙間から大君の袖を捕えて引き寄せて、ひどく恨み言を言うのだった。
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