総角 その四十五

 いつものように薫の君が来たということで一同丁重に接待に大慌てだ。


 姫君たちはその騒ぎをなんとなく面倒なと聞くが、大君はこの前も中の君に心を移してもらうようにそれとなく匂わしてあるのだからと思いなおす。


 中の君は薫の君の目当ては自分ではないようだからとたとえ来ても今度はよもやと思いながらあの嫌なことのあったあとは前のように姉君を心から信頼できず、用心している。何やかやと取次ぎを通しての挨拶ばかりが取り交わされて大君は会う気配もないので、女房たちはいったいどうなることかと気を揉んでいた。


 そのうち薫の君は夕闇にまぎれて匂宮を馬で迎えておいてから弁を呼んで、



「私から大君にほんの一言申し上げたいことがあるのだが、先夜すっかり嫌われた様子だったので実に恥ずかしいけれどこのまま引き下がってばかりもいられない。もう少し夜が更けてから大君に了解を得て先夜のように中の君のところに案内してはもらえないだろうか」



 など隠し立てのないふりをして頼むので、弁は姉妹のどちらと結ばれても同じことだと考えて大君の前に行くのだった。

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