総角 その三十八

 明るくなってきた朝の光の中に大君は壁の中のキリギリスのように屏風のきわから這い出てくる。中の君が何と思うだろうととても可哀そうなので互いにものも言わない。この中の君まで姉妹二人ともすっかりあの人にあらわな姿を見られてしまって奥ゆかしさがまるでなくなり何という情けないことか、これから先だって気の許せない世の中なのだと大君はしきりに心を悩ませている。


 弁は薫の君の部屋に行って呆れるほかない大君の気の強さをすっかり聞いてあまりに考え深すぎる可愛げのなさに薫の君を気の毒がって呆然と座り込んでいる。


 薫の君は、



「これまでの大君の冷淡さはまだ望みがまったくない気がしなくて何かと心をなだめていたけれど、今夜という今夜はとても恥ずかしくて、身投げでもしてしまいたくなります。しかし八の宮がお見捨てになれず、姫君のこの世にお残しになったお心の苦しさをお察しすればまた一途にこの身を捨てることもできないのです。色の恋のという気持ちはもう二人のどちらにも持つ気はない。この情けなさも恨みもどちらも共に忘れられそうにない。匂宮などは臆面もなくお手紙を差し上げているようだけれど、姫君たちは同じことなら望みを高くああいう身分の人と私などは無視して望んでいらっしゃるようだとやっとよくわかってきたのです。まったく、それもいかにもごもっともなお考えだと気がひけてくるし、もうこれ以上こちらへお伺いしてあなたがたにお目にかかるのも口惜しくて。まあそれもいいでしょうよ。こんな馬鹿な私のことはもう決して人に話さないでほしい」



 と恨み言を言っていつもより急いで帰っていったのだった。

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