総角 その三十七

 薫の君は逢いたい人と語り合った秋の夜というわけでもないが、いつの間にか夜が明けてしまったような心地がして大君とどちらがどうと区別もつきかねる中の君のしっとりした可憐さを自分の気持ちから摘まずにすましたのをいまさら満たされない気持ちがして、



「私があなたを思うようにあなたのほうも私を愛してくださいね。本当にあんまりな情けない姉上のなさり方を見習ってはなりませんよ」



 などとまたの逢瀬の約束をして部屋を出ていった。昨夜のことは自分でも不思議な夢を見たようで、合点がいかないのだが、やはりあの冷たい大君の気持ちをもう一度八狩確かめたいとの思いから気持ちを落ち着けて今朝もまた薫の君は姫君の部屋から戻り、いつものように一人眠った。


 入れ替わりに弁が姫君の部屋にやってきて、



「本当に変ですこと、中の君はどちらにいらっしゃるのでしょうか」



 というのを聞き、中の君はただもう恥ずかしくて思いもかけなかった昨夜の出来事に呆然として、あれはどういうことだったのかと思いながら横になっている。昨日、大君がそれとなく言った薫の君とのことを思い出して、あんまりなやり方だと恨んでいるのだった。

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