総角 その二十

 姫君は女房たちが昨夜のことをどう思っているだろうかと恥ずかしくてたまらないので、すぐに眠ることもできない。頼みにする人が一人もいなくてこの世に生きている自分が辛い上に側の女房たちまでがつまらない縁談をあれこれ取り次いで次々に言い出す始末なので思いもかけない結婚をするはめにもなりかねないようだと思案を巡らした。



「薫の君のお人柄や風采は嫌なところはなさそうだし、亡き父宮ももし薫の君のそういうお気持ちがあればお考えにもなったようで時折お口にも出されたようだけれど、私自身はやはりこのまま独身で過ごすことにしよう。私よりは器量や姿も今が若盛りで美しくこのままでは惜しいように思われる中の君に人並みの幸福な結婚をさせてあげられたらどんなにうれしいだろう。中の君が薫の君と結婚するという縁談だったら私の心の及ぶ限り面倒を見よう。それにしても私自身の身の上はいったい誰が見てくれることになるだろう。薫の君がありふれたごく世間並みの人なら長い年月こうして親しくさせていただいたおなじみ甲斐があって結婚する気にもなったかもしれないけれど、あまりに立派すぎ近づきがたいお人柄なのもかえって気がひけて結婚の相手とは考えにくい。私はやはり生涯こうして独身で通すことにしよう」



 と考え続けて忍び音がちに泣きながら夜を明かしたのだった。

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