総角 その十

 今夜は薫の君もここに泊って姫君とゆっくりくつろいで話などをしたくてなんとなくとりとめなく夕方まで時を過ごした。薫の君はそれをはっきり言葉にはしないで何やら恨めしそうな様子になり、次第にどうしようもなく感情が昂じてゆくので、大君は扱いに困り果てて打ち解けた話などはいよいよ気詰まりになる。それでもだいたいにおいて世にも珍しい情味の深い心の薫の君なので、あまり素っ気なくもできず自身で対応する。


 仏間との間の襖を開けて灯明の火を赤々とともさせ、簾の前にはさらに屏風を添えてその奥に姫君がいる。簾の外の薫の君のほうにも灯りを差し出したが、薫の君は、



「気分が悪くて失礼な格好をしていますのに、それでは明るすぎますよ」



 と灯りを取り除けてそのまま横になってしまうのだった。

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