総角 その九

「明石の中宮は立場柄そう馴れ馴れしくとりとめもない気持ちのままをくだくだしく申し上げることもできません。母の尼宮は母とも思えないような若々しさですけれど、やはり出家の立場だし、そう気軽にお話などできません。その他の女というものはみんな本当に遠い存在のようで気がひけて恐ろしい感じがして、寄る辺のない孤独な気持ちで心細い気がします。私はその場限りの戯れでも恋愛に関してはとても気恥ずかしくて不器用でもあり性にあいません。まして心の内で思いつめている人のことは口に出して話もできず、恨めしいとも苦しく切ないとも思っていながらその気配さえお見せできないのは我ながらどこまで融通の利かない男とか情けなくなります。


 匂宮のことにしてもまさか悪いようにはしないだろうとお思いになってこの私に任せてくださらないでしょうか」



 などと言って座り込んでいる。弁もまたこれほど姫君たちが心細い身の上なのに、薫の君が理想的な人柄なので心から大君との結婚を望ましく思うものの、匂宮もそれぞれ気がひけるほど立派な人々なので、自分の考えをあからさまには言うこともできないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る