椎本 その五十七

 まず一人姫君が出てきて几帳の蔭から庭のほうを少し覗いて、薫の君のお供の人々が庭であちこちと行き来して涼んでいるのを見る。


 濃い鈍色の単衣に萱草色の袴が鮮やかに引き立ってかえって普通のときとは違った華やかさに見えるのは着こなしている人の人柄によるだろう。掛け帯は形ばかりに無造作に垂らして数珠は袖口の中に引き隠して持っている。


 背丈は実にすらりと高く、姿格好の美しい姫君だ。黒髪は袿の裾に少し足りないと思われるほどの長さで、端の方まで塵一筋の乱れもなくつやつやと多すぎるほどゆたかなのも可憐に見える。横顔などなんと可愛らしい人かと思われた。肌の色つやもほのぼのと美しく、ふんわりとおっとりした感じは明石の中宮が生んだ女一の宮もこんな美しさでいるのだろうと、いつかちらと見たことのあるその姿を思い比べてついため息が洩れるのだった。

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