椎本 その五十二

 新しい年になると空の景色もうららかになり、汀の氷が解けてゆく様子を姫君たちは見て、解けもせず生きている自分たちが不思議なもののように思い、悲しみに沈んでいる。山の阿闍梨のところから、



「雪解けに摘んだものでございます」



 と言って、沢の芹、蕨などを贈った。それを精進の膳にして仏の前に差し出す。



「山里は山里なりにこうした草木の様子で季節の移り変わりがわかって面白いわね」



 などと女房たちが話しているのを姫君たちはそんなことの何が面白いのだろうと聞いている。大君が、



 君がをる峰の蕨と見ましかば

 知られやせまし春のしるしも



 と詠むと、中の君は、



 雪深き汀の小芹誰がために

 摘みかはやさむ親なしにして



 ととりとめもないことをいろいろと話しながらその日その日を暮らしていた。薫の君からも匂宮からも折々をとらえてまめに手紙が届くが、わずらわしく別に取り立てて言うほどの話もなかったようなので例によって書き洩らしたのだろう。

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