椎本 その五十一
八の宮の居間だったところを開けさせて入ると、塵がとても積もって供花の飾りも以前のままに仏像だけが安置されている。八の宮が勤行していた台などはすっかり取り除かれていて片付けられていた。
「いずれ私も出家した暁には」
と仏道の師と頼みここで修業する約束したことも思い出し、
立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本
むなしき床になりにけるかな
と詠み、その部屋の柱によりかかり座っている薫の君の姿を若い女房たちはのぞき見して、
「なんて素晴らしい人でしょう」
とほめそやしている。
日が暮れたのでこの近辺の薫の君の荘園に奉公している人々に秣を持ってくるようにと供の家来たちが命じていたので、荘園の田舎人たちが大勢連れ立ってがやがやと秣を運んできた。薫の君はそんなこととは知らなかったので、
「これはどうしたことか、みっともなく具合の悪い妙なことになった」
と思ったが、あの老女の弁を訪ねてきたというふうにつくろった。
荘園の人々にはいつもこのように御用をつとめるようにと命じて京へ帰るのだった。
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