椎本 その四十六

「何事につけても成り行きに任せて我を通さず、おっとりかまえている人こそただ世間の扱いに従ってどのようなことがあっても軽く見過ごして多少気にそまないことがあってもこれも因縁だろうしかたがないことだなどと考えるようですからかえって末永く添え遂げるといった例もあるようです。いったん男女の仲が崩れ始めますと、龍田川の水の濁る例えではありませんが女の名誉も汚し、台無しにして縁もすっかり切れてしまうような例なども世間にはよくあることです。それに引き換え匂宮は何事にも深い愛執を感じられる気性でして、気に召して格別匂宮に逆らうようなことが少ない人に対しては決してはじめと終わりとでは違うような軽率な態度をお見せになるようなことはありません。匂宮について人が知らないことまで私はよくよく存じ上げていますからもし似合いの御縁とお思いになり、結婚してもいいというお気持ちでもおありならそのお仲立ちは及ぶ限りの力を尽くしてご奉仕させていただきましょう。そうなれば宇治と京の間を往来してさぞ足が痛むことでしょう」



 ととてもまじめな顔つきで言い続けるのだった。

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