椎本 その四十五

「匂宮がどうしてか妙に私を恨んでいるのです。いつかの父宮の胸にしみるご遺言を承った時のご様子などを何かの話の折についお話したことがあったのでしょうか、それともとても気のまわる性分から推量なさったものでしょうか、この私から何かとよしなに姫君たちのほうへおとりなししてくれるものと頼りにしていたのに、一向に姫君たちからよい返事もいただけないのはきっと私の口添えが下手だからに違いないとしきりにお恨みになります。思いもかけない言いがかりだと思いますけれど、この宇治へのご案内役をそう無碍にも断りかねておりますのに、どうしてそんなふうにことさらに冷たく匂宮をお扱いなさるのでしょう。好色な人のように世間ではお噂しているようですが、お心の底は不思議なくらい上の深い人なのです。ちょっとした遊び心でお声をかけられるとすぐ軽薄に乗ってきてなびくような女は珍しくもないと軽蔑していらっしゃるのではないかと聞くこともございます」

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