椎本 その三十九
薫の君は年寄りが問わず語りをするのはよくあることなので見境なく誰彼に軽々しくしゃべり散らしたりはしないにしてもいかにもこちらが気恥ずかしく思うほど立派な様子のあの姫君たちはとうに耳にしているだろうと推量する。それが忌々しいとも困ったこととも思うので、やはり秘密を知った姫君を何としても自分のものにするほかはないと恋情を募らせる原因にもなることだろう。
八の宮の亡くなった今となってはこの邸に泊るのも落ち着かない気持ちがして薫の君は帰る。それにつけても、
「八の宮が『これが最後になるだろう』とおっしゃったのに、どうしてそんなことがあろうと迂闊にも気を許して二度とお目にかからずじまいになったのだろう。宮に最後にお会いしたのも宮がなくなられたのも同じ今年の秋のことで、あれからまださほど日数も経っていないのに、八の宮はもはや行方も知れぬあの世に旅立っておしまいになった。何というあっけないことか」
と思うのだった。
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