橋姫 その四十二
明け方近くになったかと思われる頃、薫の君はあのいつかの夜明けのことが思い出されて、琴の音色はしみじみ趣が深いといった話から糸口を作り出して、
「この前、濃い霧に迷わされながらお伺いした夜明けのことでした。なんとも言えない素晴らしい楽の音色をほんの少しだけお聞かせいただきましたが、かえってその後がお聞きしたくなっていつもそればかり考えてしまいます」
など言う。八の宮は、
「この世の色も香もすべて執着というものを捨ててしまったあとは昔聞き覚えたこともすべて忘れてしまいました」
と言ったが、女房を呼んで琴を持って来させて、
「今の私にはまったく不似合いなことになってしまいました。先に立って合奏してくださる方でもあれば少しは思い出すでしょう」
と言い、琵琶を持ってこさせ、客の薫の君にそれを弾くように勧めるのだった。
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